【 支払い方法、問題あり 】 2010.10.11初出
美味しそうな焼き魚が目前に運ばれて来た。
僕がうっとりとそれを眺めている間に、その他の皿も次々テーブルへと置かれていく。
鮮やかなグリーンサラダに、白いご飯。小さい器には、赤味噌風うどん。
小鉢は小さく切られたワカメと豆腐を混ぜた物。ネギ入りの納豆も用意された。
どれも僕の食欲をそそって仕方がなかった。
最後に、どーんと大皿で幾重にも綺麗に巻かれた卵焼きが置かれると、早く食べたくて涎が出そうになる。
そんな僕を、不思議な目で見つめるのは。
この大衆食堂の佇まいを見た瞬間に眉を顰めたジェイだ。
どうやら、彼にはこの食堂の何もかもが気に入らないらしい。
それはそうだろう。
何といっても、彼は貴族であり、一国の大臣なのだから。
小国とはいえ、国王補佐という地位を与えられ、それに相応しい働きで国王のみならず民衆からも認められている男だった。
うどんを吸うように食べ始めた僕を、咎めるように見つめるジェイの気持ちは痛いほどに分かる。分かるんだけど。
(こればっかりは、ねぇ)
うどんは、吸い込んで食べる物だと思うのだ。絶対に。
お上品に食べるなんて、逆にもったいない。
いや、そんなことは置いといて。
今は目前のモノに集中するべきだろう、やっぱり。
(あぁ、美味しいなぁ。やっぱり故郷の食事が一番だね、うん)
何も言わないジェイの不機嫌な表情を無視して、ひたすら食事に専念する。
久しぶりの和食に胸を躍らせ、生きてて良かったと感謝しながら。
納豆の小鉢を手に取り、ワカメと豆腐の小鉢にザっと落すと一気に掻き混ぜる。
ほど良く混ざったところで、白いご飯の上に少し乗せて口に運んだ。
その味は当然、
「おいし~いぃ~~」
ほっぺたが落ちるとは、こんな状態なのだろう。
一品ずつ楽しむ人も多いけれど、僕は色んな物が混ぜられたがゆえに出来る絶妙な味が大好きだった。
誰にも文句は言わせないほどに。
だから、ジロっと睨んでくるジェイの視線も無視。全く無視だ。
(遥々やって来て、自分の好みで食事が出来ないなんて、オカシイだろ)
焼き魚をほぐし、醤油を少しだけ垂らした大根おろしと一緒に口に入れた。
美味しくて堪らず、次から次へと魚を口に運ぶ。
「う~ま~。しぃ~あ~わ~せぇ~~~」
食事に集中する僕に何か言いたいのだろう、ジェイが激しく睨んでくる。
それに気付いてはいたものの、今の僕に怖いものなど無かった。
ただ、ひたすら食べるのみ。
(だって、次があるとは限らないじゃないか)
そう思うと、手を休めることの方が罪な気がするのだ。
こんなに僕の味覚を刺激してやまない美味しい食事を、ジェイの国では食べられないのだから。
ふっくら卵焼きを一口大に切ると、中に明太子が入っていた。
僕は嬉しさに目を輝かせた。
「ネギだけじゃなくて、明太子まで入ってるんだ。ラッキー」
一口頬張ってその美味しさに感激し、更にもう一切れを口に運んだ。
「う~ま~まぁ~~いぃ~~」
これだよ、これが和食なんだよ、とニマニマするのを止められない。
卵焼きを食べ終えると、残っているうどんに手を伸ばした。
途中で焼き魚にも箸を伸ばし、啄ばむのを何度も繰り返していく。
そんな僕を、今や、ただ呆れて見つめるだけのジェイに気付いてはいたけれど。
「美味しさの完全勝利!」
すでにハイになっていたのだろう、おかしなことを小さく叫んでしまった。
その後も美味しい、美味しい、と同伴者を完全無視して一人食べ続けた。
店員たちが不思議そうに見つめる視線を幾度か感じたけれど、やはり無視してしまう僕だった。
食事を終えた僕は、ジェイに攫われるように飛行機へと乗せられてしまった。
小型とはいえ、自家用機である。
内装は無駄に豪華で、未だ庶民の僕には慣れない。
胡坐を組んだジェイに引っ張られ、向かい合うように座ると、さっそく好色な男が手を伸ばして来た。
「ぃ、やっ……」
身体を弄られ、恥ずかしさに身を捩る。
「ほう、こんなに遠くまで愛妾の望むまま連れて来てやった私に逆らうか」
本気で叱っているのではないと分かっていた。
それでも貫くような鋭い視線が怖い。
彼はいつでも、こうやって僕を怯えさせ、自分の思い通りに事を運ぶのだ。
僕を捕らえた時と同じように。
「ご、ごめん。……ジェイ、ありがとう。連れて来てくれて」
食事が口に合わないわけでは決してなかったけれど、喜んで食べることが少なかった僕を心配したのだろう。
毎日、僕の世話をしてくれる侍女たちが、主人のジェイに頼んでくれたのだ。
僕の故郷の食事を作れる料理人を手配して欲しいと。
「お前の国では、伝統料理以外にも幾つもの料理があるようだな。どの料理が一番の好みだ? 何なら全ての料理に対応出来るよう手配しても構わんぞ」
深夜、引っ切り無しに喘がされた後の、唯一ゆっくり出来る大好きな余韻の時間。
ジェイが僕の背中を撫でながら、少しだけ掠れた声で尋ねて来た。
彼に挑まれる行為は苦しくて痛くて堪らないけれど。
終わった後の短い、けれど穏やかな空気に包まれる、その瞬間が好きだった。
大柄な男が、不器用な手で甘やかすように優しくあやしてくるのだ。
髪を梳く穏やかな指の動き。頬を撫でる大きな掌。
毎日、この瞬間の為に生きている気がしていた。
初めて出会ってから、すでに半年。
何がどうなって、どこが気に入られたのかは今でもわからない。
それでも、ジェイに強引に捕らわれ、彼の屋敷に閉じ込められて。
愛妾と呼ばれて暮らしている現実があった。
何度も逃げようとしたけれど、その度に捕まっては性的な仕置きを与えられ、屈辱と羞恥に死にたくなったこともある。
「泣こうが喚こうが、絶対に逃がさん」
鋭い視線で絡めとられ、彼の腕の中から抜けられない。
なら、少しでも自分が楽になるよう、努力するしかないじゃないか。
痛くて怖い行為も、出来るだけ自分から動いて苦痛から逃れるようにした。
彼の手や指に、時には口で慣らされるのは恥ずかしい。
でも抵抗した所為で酷い目に遭うよりも慣れた方が楽なのは確かなのだ。
翌日の身体の調子が全く違うのだから。
ここ数ヶ月、そうやって抵抗を減らしてきた効果なのだろうか。
ジェイが使用人たちの頼みを聞いてもいいと思ったのは。
所詮はベッドでのピロートークだとしても、僕の食生活を心配してくれたことを素直に嬉しいと思っていた。
だから、食べたい物を次々と答えて言ったのだが。
途中から彼の眉が歪んでいることに気付いて僕は喋るのを止めた。
(マズイ。いろいろ言い過ぎたかな)
背中を一筋の汗が流れ、ビクっと身体を震わせる。
「もういい。それだけ故郷の味が恋しいわけだな」
僅かに息を吐き、そう告げたジェイ。
僕の身体を自分の胸に抱き寄せると眠りの体勢に入ってしまった。
良く分からないまま僕も目を閉じたけれど、久しぶりに故郷の料理を思い出した所為で中々眠ることが出来なかった。
それから数週間後。僕がすっかりそのことを忘れていた昨日のこと。
いきなり、ジェイが僕の外出の支度を侍女たちに命じたのだ。
初めて彼に会った日に着ていた服を出して、それに着替えるようにと。
意味が分からず、首を傾けてジェイを見上げている僕に、彼が笑った。
「お前は私のモノだ、一生な。暇が出来たから食事に連れて行くだけのこと」
嬉しいか、そう聞かれて暫らく悩んだ。
(食事? 外に、行くって?)
籠の鳥のような生活に慣れていた僕には彼の真意が分からず、首を傾げるしかない。
けれど、頭の隅に何か引っ掛かるものがある。
(えっ、と。食事、食事……。う~ん、食事?)
侍女たちに着替えさせられ、用意が出来ても僕はまだ悩んでいた。
答えの出ない僕に焦れたのだろう。
ジェイは僕をさっさと抱き上げると、待たせていた車へと歩いて行く。
高級車に乗せられ、久しぶりの外の景色を無意識に眺めていると、
「世界共通、馬鹿な子は可愛いと言うが」
呆れた、というかのように見つめられ、うっと咽喉を鳴らした。
何か引っ掛かる言い方だけど、思い出せないモノは思い出せないのだ。
「わざわざ服をソレにした意味を考えろ」
そう言われ、思わず自分の身体を見下ろした。
ようやく、そう、段々と理解し始めると、自然に顔が綻んでいたのだろう。
ジェイが仕方なさそうに、僕の頭を撫で回して来た。
(もしかして、良く出来たって言ってるわけ?)
文句の一つも言いたかったけれど、ここで彼を怒らせたら車が方向転換されてしまうのは間違いなかった。
「あ、ありがとう。ジェイ」
だから、せっかく素直にお礼を言ったというのに。
「礼には及ばん。後で代金はキッチリ身体で支払ってもらうからな」
唖然とする言葉で返されて、車中だというのにあたふたしてしまう僕を彼が笑った。
狭い空間で彼から逃げようと窓際に身体を引っ付けたけれど、当然というかあっさり捕まって引き寄せられてしまう。
「先払いをもらうぞ」
そう言って、僕の唇が奪われた。
長い長い口付け。
(ま、まだ? うわ~っ、舌、舌を入れるな~)
絡め取られる舌に意識が向いている間に、彼の指が僕の乳首を探ってきた。
「んん~っ、んっ、んそっきっ~~」
キスだけだと思って安心していたのは大間違いだった。
(うそだろ~っ。やだ、いやだっ。う、運転手さんや護衛の人がぁ~~~)
見られる羞恥に顔を染めて、ジェイの身体を手で必死に押し退ける。
楽しそうな彼の様子が恨めしい。
このままだと、飛行場に着くまで悪戯な指で身体中が弄られてしまうに違いない。
(誰だよ、先払いなんて言葉を考えたヤツは~~)
自分でも、突っ込む場所が間違っているのは分かっていた。
だけど本当に楽しそうなジェイの顔を見て。
まぁいいか、と思ってしまったのだ。
やっぱり彼はカッコいいなあ、なんて愚かな僕は誘拐犯を褒めてしまうのだった。
結局。先払いと後払いを身体で支払ったというのに。
招きよせた料理人たちの食事を楽しむ僕を見るたび、ジェイはニヤっと笑っては同じ方法で支払えと、僕に手を伸ばして来るのだった。
美味しそうな焼き魚が目前に運ばれて来た。
僕がうっとりとそれを眺めている間に、その他の皿も次々テーブルへと置かれていく。
鮮やかなグリーンサラダに、白いご飯。小さい器には、赤味噌風うどん。
小鉢は小さく切られたワカメと豆腐を混ぜた物。ネギ入りの納豆も用意された。
どれも僕の食欲をそそって仕方がなかった。
最後に、どーんと大皿で幾重にも綺麗に巻かれた卵焼きが置かれると、早く食べたくて涎が出そうになる。
そんな僕を、不思議な目で見つめるのは。
この大衆食堂の佇まいを見た瞬間に眉を顰めたジェイだ。
どうやら、彼にはこの食堂の何もかもが気に入らないらしい。
それはそうだろう。
何といっても、彼は貴族であり、一国の大臣なのだから。
小国とはいえ、国王補佐という地位を与えられ、それに相応しい働きで国王のみならず民衆からも認められている男だった。
うどんを吸うように食べ始めた僕を、咎めるように見つめるジェイの気持ちは痛いほどに分かる。分かるんだけど。
(こればっかりは、ねぇ)
うどんは、吸い込んで食べる物だと思うのだ。絶対に。
お上品に食べるなんて、逆にもったいない。
いや、そんなことは置いといて。
今は目前のモノに集中するべきだろう、やっぱり。
(あぁ、美味しいなぁ。やっぱり故郷の食事が一番だね、うん)
何も言わないジェイの不機嫌な表情を無視して、ひたすら食事に専念する。
久しぶりの和食に胸を躍らせ、生きてて良かったと感謝しながら。
納豆の小鉢を手に取り、ワカメと豆腐の小鉢にザっと落すと一気に掻き混ぜる。
ほど良く混ざったところで、白いご飯の上に少し乗せて口に運んだ。
その味は当然、
「おいし~いぃ~~」
ほっぺたが落ちるとは、こんな状態なのだろう。
一品ずつ楽しむ人も多いけれど、僕は色んな物が混ぜられたがゆえに出来る絶妙な味が大好きだった。
誰にも文句は言わせないほどに。
だから、ジロっと睨んでくるジェイの視線も無視。全く無視だ。
(遥々やって来て、自分の好みで食事が出来ないなんて、オカシイだろ)
焼き魚をほぐし、醤油を少しだけ垂らした大根おろしと一緒に口に入れた。
美味しくて堪らず、次から次へと魚を口に運ぶ。
「う~ま~。しぃ~あ~わ~せぇ~~~」
食事に集中する僕に何か言いたいのだろう、ジェイが激しく睨んでくる。
それに気付いてはいたものの、今の僕に怖いものなど無かった。
ただ、ひたすら食べるのみ。
(だって、次があるとは限らないじゃないか)
そう思うと、手を休めることの方が罪な気がするのだ。
こんなに僕の味覚を刺激してやまない美味しい食事を、ジェイの国では食べられないのだから。
ふっくら卵焼きを一口大に切ると、中に明太子が入っていた。
僕は嬉しさに目を輝かせた。
「ネギだけじゃなくて、明太子まで入ってるんだ。ラッキー」
一口頬張ってその美味しさに感激し、更にもう一切れを口に運んだ。
「う~ま~まぁ~~いぃ~~」
これだよ、これが和食なんだよ、とニマニマするのを止められない。
卵焼きを食べ終えると、残っているうどんに手を伸ばした。
途中で焼き魚にも箸を伸ばし、啄ばむのを何度も繰り返していく。
そんな僕を、今や、ただ呆れて見つめるだけのジェイに気付いてはいたけれど。
「美味しさの完全勝利!」
すでにハイになっていたのだろう、おかしなことを小さく叫んでしまった。
その後も美味しい、美味しい、と同伴者を完全無視して一人食べ続けた。
店員たちが不思議そうに見つめる視線を幾度か感じたけれど、やはり無視してしまう僕だった。
食事を終えた僕は、ジェイに攫われるように飛行機へと乗せられてしまった。
小型とはいえ、自家用機である。
内装は無駄に豪華で、未だ庶民の僕には慣れない。
胡坐を組んだジェイに引っ張られ、向かい合うように座ると、さっそく好色な男が手を伸ばして来た。
「ぃ、やっ……」
身体を弄られ、恥ずかしさに身を捩る。
「ほう、こんなに遠くまで愛妾の望むまま連れて来てやった私に逆らうか」
本気で叱っているのではないと分かっていた。
それでも貫くような鋭い視線が怖い。
彼はいつでも、こうやって僕を怯えさせ、自分の思い通りに事を運ぶのだ。
僕を捕らえた時と同じように。
「ご、ごめん。……ジェイ、ありがとう。連れて来てくれて」
食事が口に合わないわけでは決してなかったけれど、喜んで食べることが少なかった僕を心配したのだろう。
毎日、僕の世話をしてくれる侍女たちが、主人のジェイに頼んでくれたのだ。
僕の故郷の食事を作れる料理人を手配して欲しいと。
「お前の国では、伝統料理以外にも幾つもの料理があるようだな。どの料理が一番の好みだ? 何なら全ての料理に対応出来るよう手配しても構わんぞ」
深夜、引っ切り無しに喘がされた後の、唯一ゆっくり出来る大好きな余韻の時間。
ジェイが僕の背中を撫でながら、少しだけ掠れた声で尋ねて来た。
彼に挑まれる行為は苦しくて痛くて堪らないけれど。
終わった後の短い、けれど穏やかな空気に包まれる、その瞬間が好きだった。
大柄な男が、不器用な手で甘やかすように優しくあやしてくるのだ。
髪を梳く穏やかな指の動き。頬を撫でる大きな掌。
毎日、この瞬間の為に生きている気がしていた。
初めて出会ってから、すでに半年。
何がどうなって、どこが気に入られたのかは今でもわからない。
それでも、ジェイに強引に捕らわれ、彼の屋敷に閉じ込められて。
愛妾と呼ばれて暮らしている現実があった。
何度も逃げようとしたけれど、その度に捕まっては性的な仕置きを与えられ、屈辱と羞恥に死にたくなったこともある。
「泣こうが喚こうが、絶対に逃がさん」
鋭い視線で絡めとられ、彼の腕の中から抜けられない。
なら、少しでも自分が楽になるよう、努力するしかないじゃないか。
痛くて怖い行為も、出来るだけ自分から動いて苦痛から逃れるようにした。
彼の手や指に、時には口で慣らされるのは恥ずかしい。
でも抵抗した所為で酷い目に遭うよりも慣れた方が楽なのは確かなのだ。
翌日の身体の調子が全く違うのだから。
ここ数ヶ月、そうやって抵抗を減らしてきた効果なのだろうか。
ジェイが使用人たちの頼みを聞いてもいいと思ったのは。
所詮はベッドでのピロートークだとしても、僕の食生活を心配してくれたことを素直に嬉しいと思っていた。
だから、食べたい物を次々と答えて言ったのだが。
途中から彼の眉が歪んでいることに気付いて僕は喋るのを止めた。
(マズイ。いろいろ言い過ぎたかな)
背中を一筋の汗が流れ、ビクっと身体を震わせる。
「もういい。それだけ故郷の味が恋しいわけだな」
僅かに息を吐き、そう告げたジェイ。
僕の身体を自分の胸に抱き寄せると眠りの体勢に入ってしまった。
良く分からないまま僕も目を閉じたけれど、久しぶりに故郷の料理を思い出した所為で中々眠ることが出来なかった。
それから数週間後。僕がすっかりそのことを忘れていた昨日のこと。
いきなり、ジェイが僕の外出の支度を侍女たちに命じたのだ。
初めて彼に会った日に着ていた服を出して、それに着替えるようにと。
意味が分からず、首を傾けてジェイを見上げている僕に、彼が笑った。
「お前は私のモノだ、一生な。暇が出来たから食事に連れて行くだけのこと」
嬉しいか、そう聞かれて暫らく悩んだ。
(食事? 外に、行くって?)
籠の鳥のような生活に慣れていた僕には彼の真意が分からず、首を傾げるしかない。
けれど、頭の隅に何か引っ掛かるものがある。
(えっ、と。食事、食事……。う~ん、食事?)
侍女たちに着替えさせられ、用意が出来ても僕はまだ悩んでいた。
答えの出ない僕に焦れたのだろう。
ジェイは僕をさっさと抱き上げると、待たせていた車へと歩いて行く。
高級車に乗せられ、久しぶりの外の景色を無意識に眺めていると、
「世界共通、馬鹿な子は可愛いと言うが」
呆れた、というかのように見つめられ、うっと咽喉を鳴らした。
何か引っ掛かる言い方だけど、思い出せないモノは思い出せないのだ。
「わざわざ服をソレにした意味を考えろ」
そう言われ、思わず自分の身体を見下ろした。
ようやく、そう、段々と理解し始めると、自然に顔が綻んでいたのだろう。
ジェイが仕方なさそうに、僕の頭を撫で回して来た。
(もしかして、良く出来たって言ってるわけ?)
文句の一つも言いたかったけれど、ここで彼を怒らせたら車が方向転換されてしまうのは間違いなかった。
「あ、ありがとう。ジェイ」
だから、せっかく素直にお礼を言ったというのに。
「礼には及ばん。後で代金はキッチリ身体で支払ってもらうからな」
唖然とする言葉で返されて、車中だというのにあたふたしてしまう僕を彼が笑った。
狭い空間で彼から逃げようと窓際に身体を引っ付けたけれど、当然というかあっさり捕まって引き寄せられてしまう。
「先払いをもらうぞ」
そう言って、僕の唇が奪われた。
長い長い口付け。
(ま、まだ? うわ~っ、舌、舌を入れるな~)
絡め取られる舌に意識が向いている間に、彼の指が僕の乳首を探ってきた。
「んん~っ、んっ、んそっきっ~~」
キスだけだと思って安心していたのは大間違いだった。
(うそだろ~っ。やだ、いやだっ。う、運転手さんや護衛の人がぁ~~~)
見られる羞恥に顔を染めて、ジェイの身体を手で必死に押し退ける。
楽しそうな彼の様子が恨めしい。
このままだと、飛行場に着くまで悪戯な指で身体中が弄られてしまうに違いない。
(誰だよ、先払いなんて言葉を考えたヤツは~~)
自分でも、突っ込む場所が間違っているのは分かっていた。
だけど本当に楽しそうなジェイの顔を見て。
まぁいいか、と思ってしまったのだ。
やっぱり彼はカッコいいなあ、なんて愚かな僕は誘拐犯を褒めてしまうのだった。
結局。先払いと後払いを身体で支払ったというのに。
招きよせた料理人たちの食事を楽しむ僕を見るたび、ジェイはニヤっと笑っては同じ方法で支払えと、僕に手を伸ばして来るのだった。
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