【 王の小花 】 初出-2009.07.18
冷酷で無口な王様に目を付けられた少年の話。 ※ 蟲を使った行為あり。
冬めいてきた或る日のこと。
王宮の中は舞踏会の準備に追われていた。
先年、王の叔父である大将軍が長患いの末に亡くなり、この半年、宮廷では華やかな催しを開いていなかった。
その為、今宵の舞踏会には大勢の貴族や高級軍人が、その家族を引き連れてやって来るのだ。
招待客のリストは完璧で変更もなく順調に進んでいたのだが、昨日になって更に人数が増えることが判明していた。
付き添える人数は貴族の地位や職務で決まっているというのに、高位の女性貴族が複数人、絶対に必要だと強引に友人や愛人その付き添いを増やしていたのだ。
「ふざけてんのか?」
「許したのはどいつだっ! 一発殴らせろ」
その女性達に用意される部屋数は問題なく増やされた。
但し、結果として大勢が追い出され、別の部屋にひとまとめで移動させられることになった。
移動してきた人数に怒った者が不満をぶちまけて何人かが追い出されると、その追い出された者たちを押し込む部屋が新たに必要となり、繰り返される悪循環。
最初に毅然と断れなかった役人の無能さにブチ切れ寸前の侍従や侍女達は、朝から王宮中を大忙しで動き回っていた。
王宮の最奥、王の私室に一番近い部屋も似て非なる理由で大変切羽詰っていた。
あと少しで夕刻だというのに、王の愛妾である少年が駄々を捏ね続けていたからだ。
ただ、少年は舞踏会の日取りが決まった時から抵抗しており、今も自分より背の高い本棚の後ろの小さな隙間に入り込んで出ようとはしなかった。
刻々と迫る開催時刻に、ついに7人の侍女達は切り札を出した。
「あと一刻で王がお見えになられます」
その言葉に、ビクっと少年の身体が震えるのを彼女達は静かに見守った。
優しくて気立ての良い少年を彼女達は敬い、その心が汚れないよう細心の注意を払って教育してきた。
元からの気性もあるのだろうが、少年は王唯一の愛妾であることに驕ることなく、侍女達を母のように、姉のように頼ってくれていた。
心優しく壊れやすい、繊細な魂の持ち主なのだ。
そんな少年を視線一つで支配し、その凶悪な振る舞いで恐怖させる。
彼らの王は、国民全ての畏怖と尊敬の象徴だった。
街道は活気付く人々の往来で賑わっていた。
誰もが、王宮主宰である舞踏会の開催を喜んでおり、この好機に頬を緩ませている。
王宮が催しを自粛していた為、貴族も裕福な商人も無駄に宴を開く訳にもいかなかったのだ。
この街は王と貴族の為の専門職が多く集まっている。
その職人に仕事が回らなくなり、その家族もまた暮らしを節約するしかなかった。
大きな市場で働く店主や店員、家族にも影響は大きく、皆が早く喪が明けることを心の中で祈り続けていた。
今回、ようやく舞踏会が発表されたことで、住人達はホっと胸を撫で下ろして喜び合った。
他国からの高貴な客人に付き従う者達が、この街で買い物をする機会もあるだろうし、もしかしたら、その主を秘密裏に案内してくるかも知れないと。
舞踏会場で彼らに張り合うつもりなのか、この国の貴族達も大量の品を発注してきていた。
今迄の分を取り戻す勢いで金が国中を回っており、商売も順調に伸びていた。
久しぶりに躍動する街で笑顔を見せている国民には、もう一つ楽しみがあった。
国中に知れ渡っていることだが、尊敬する王には後宮の女達を退けて愛でる花があり、その溺愛ぶりは有名だった。
決して誰も近付けず、誰にも見せないその花は、今年18歳になる儚げな少年だという。
今回初めて、その少年が公式の場に姿を見せると噂になっており、後宮の高貴な女性達との戦いが起こるのではないかと、賭けの対象になっているのだ。
勿論、本当に戦うのではなく、衣装や宝石の豪華さで競うであろうそれを、国民代表として招待された者達の評価を集計して勝者を決めることになっていた。
何と言っても王の一番のお気に入りであり、愛妾が圧勝するに違いないと誰もが思ってはいたものの、やはり番狂わせを望む者達も多く、人が集まる場所ではその話題が必ず出るほどだった。
▲
5年前、その少年は目前で両親と一族全員を殺されていた。
王宮に招かれ、全員が広間に揃って跪いたその瞬間に。
阿鼻叫喚、逃げ惑う親族達が次々に切り殺されるのを、傍に居た兵士に引き摺られたまま、呆然とその惨状を見つめていたという。
余りの光景に思考はストップし、少年はやがて気を失った。
その彼を殺すことなく保護したのが、親族の抹殺を命令した王であった。
将軍が少年を切り殺そうとした寸前に、王の一声で救われたのだ。
いっそ殺されたほうが良かったのかもしれない。
その夜、王の褥に連れ込まれ、憎む暇も与えられずに陵辱、蹂躙されたのだから。
余程気に入ったのか、少年は連日寝所に呼ばれ続けた。
既に王には跡継ぎがおり、誰も異を唱えることはなかったと言われている。
実は、何人かの臣下が苦言を呈しており、その事実を知っている侍従数人は彼らがいつ切り殺されるかと本気で心配していたようだ。
今現在も彼は王の手厚い庇護の下、夜毎寝所に招かれているようで、後宮では怒り狂った女達が夜毎恨みを呟いている、そんな噂がまことしやかに囁かれていた。
一族全員の抹殺の理由は判明しておらず、何か問題を起こしたのだろう、と納得する者が多かった。
これが、愛妾について国民の知る事実だった。
▲
今では知る者は少ないが、愛妾アデルは元々王家の為の形代だった。
王の初めての息子が13歳で病死し、慌てた大臣達によって神官が呼ばれると、その神官のお告げにより、神の怒りを避ける手段を二つを実行することになったのだ。
一つは、まだ幼い次男が無事成人するまでの身代わり(形代)を用意すること。
二つ目は、その形代を王宮の敷地内に住まわせ、神への捧げモノとして幽閉することだった。
勿論、誰も近付いてはならない、そう条件が付いていた。
内々に選考が行われ、自然と身分の低いものは排除されていった。
それは当然として受け止めつつも、候補に挙がった誰もが幼い子供を引き渡すのを躊躇い、何とかして拒否しようとする。
このままではらちが明かないと、大臣達が籤引きを行って形代を決めることになった。
息詰まる部屋の中。やがて、色の付いた棒を一人が引いた。
そう、アデルの祖父の兄、内務大臣である。
一族の中から選ばれた5歳の少年は、泣き叫んで抵抗する両親から引き離され、王宮へと連れて来られた。
誰も訪れない廃屋同然の小さな離宮に幽閉されたのだ。
1ヶ月に一度、遠くから見つめるだけという面会が内務大臣に許され、痩せてはいたが日々成長していく少年の姿を、心配する両親に報告することが出来たのが救いだろう。
8年後、跡継ぎの王子が無事成人すると同時に、アデルの役目もようやく終わりを迎えた。
自分の一族から形代を出さずに済んだ高位貴族達の懇願で、証拠隠滅に切り殺される心配はなかった。
だが、すぐに帰って来るはずだった息子が戻って来ない。両親は不安を覚えたものの抗議することも出来ず、じっと待ち続けた。
それから暫らくして、彼が実家へ戻される日がやってきた。
王が隣国に招待されて出立する日のことである。
手元に戻って来た我が子を抱きしめ泣いて喜ぶ両親に、アデルは初めは少し遠慮ぎみだった。
それでも嬉しかったのだろう。はにかむように静かに微笑んだという。
まだ幼いその身体に潜んだ、発狂しそうな疼きを必死に耐えながら手を伸ばして抱きついた。
隣国へと王が長い旅に出発する2週間と少し前のこと。
筆頭侍従は形代の件を報告する為、王へと跪いた。
「無事にお世継ぎである王子が成人されましたので、実家へと戻すことになります」
よくある簡単な報告の一つに過ぎない、そう思っていた。
王が顔を見せろ、と仰るまでは。
それでも、何かの気紛れだろう、と安易に考えていた。
(この8年間、一度も興味を示さなかったのにな)
驚きつつも、その形代の少年を王の前へと連れて来るよう部下に命じていた。
その後の展開は早かった。筆頭侍従が呆然とする間に、幼い子供が悪い大人の毒牙に掛かったのだ。
初対面で何を感じたのか誰にも分らない。
王は、床に片膝を付いて震えるアデルの腕を掴んで強引に立たせると、驚いて固まる少年を引き摺って広間から出て行ってしまわれたのだ。
ボーっとそれを見送っていた侍従達が、慌てて王を追い掛けた。
追い付けないまま寝室前の廊下に来てみると、そこには痛みに悲鳴を上げて助けを呼ぶアデルの叫び声が響き渡っていた。
事情を知った内務大臣や他の大臣達、筆頭侍従も扉の外で諌めてみたものの聞き入れられる筈もなく。
仕方が無い、飽きるまでの我慢だと、蒼白になる内務大臣を皆で慰め、殺されないよう注意することを約束した。
何かの気紛れだ。次の朝には解放される。誰もがそう思っていた。これまで王の寝所で夜を過ごした者は一人も居なかったからだ。
だが、その目論見は外れてしまい、一夜のみならず毎夜寝室から出すことなく寵愛する王に誰もが驚愕を隠せなかった。
このままではアデルが壊れるに違いない、と。
何より、緊張したバランスで成り立っている後宮が揺れてしまうだろう。
大勢の妃や妾に噂が入れば、大変な事が起こるのは想像出来た。
今でさえ滅多に訪れない王が、女である自分達よりも少年を選んだと知ったらどうなるだろうか。
せっかく平和が保たれているのだ、面倒を起こすことはない、と大臣達で協議した結果、旅に出る王の目を盗んでアデルを実家へと戻すことが決まった。
▲
予定通り隣国へと旅立つ際に、王は自分が戻るまでアデルを監禁しているよう筆頭侍従に命じていた。
それに恭しく頷いた筆頭侍従だったが、閉じ込めている少年の部屋の扉を大臣達の前で開いていった。
王には、寝室の窓を開き、飛び降りて死んだと告げることになっていた。
信用されないと分かっていても、死んだ人間に興味を持ち続ける王など考えられなかった。
逃げ出した少年を切り殺すよう命じるほうが現実的であり、それはこちらにとっても都合が良かった。別人の死体を用意して殺したと伝えれば良いのだから。
5歳で両親から引き離され、孤独に蝕まれていたアデルの精神は幼いままだった。そこに恐ろしい大人の男からの凌辱が与えられ、魂を失う一歩手前の状態だった。
虚空を見つめ、無音の世界に逃避していたアデルは、最初扉が開いたことに気付かなかった。
自分の身体が持ち上げられ、馬車に乗せられて実家に戻ったことさえ現実とは思えなかった。まるで死ぬ前に神様が見せてくれる優しい夢だと、そう思っていたのだ。
それでも両親と再会し、壊れ掛けていた感情を徐々に取り戻していくアデル。
その姿を見て、内務大臣の胸もようやくホっとしたのだった。
それから数週間が経った或る日のこと。
王宮から一族全員の招集が入った。
「一体、何事だ」
「どうして全員が呼ばれたんだ。王は明後日にならないと帰国しない筈だろう」
「子供達まで集合だと? 何故なんだ」
訳が分からなかったが、誰も大して不安を抱くことはなかった。
これまで不正や謀反など起こした者は一族におらず、アデルの件もまだ王にバレるには早過ぎるからだ。
まさか、王が都へ戻る途中でアデルの件を聞き、激怒しての召集だとは考える筈もない。
早馬に乗り換え、極秘の内に王宮に戻って来た王は、さっそく大広間へと向かった。
自分の気に入りを勝手に奪った者達を、この世から全て葬り去る為に。
突然現れた王に一族全員が驚いたけれど、常の如く無意識に頭を垂れていた。
その瞬間を見計らったように、王が動いた。腰に着けていた剣を引き抜きながら。
そうして—。
アデルの目前で、両親と優しい親族達が惨殺されていった。
あまりに悲惨な光景に、広間に集まっていた他の大臣達がアデルの方へと視線を逸らせた。
それはただ単に、その場所だけが王の怒気から免れていたに過ぎない。
けれども、アデルは彼らの視線を別の意味で捉えてしまった。
全てが自分に起因している、と。
その真実が幼い少年の心を押し潰していくのに時間は掛からなかった。
アデルは暗闇の中に漂っていた。
暗くて寒いその場所は安全から程遠く、今にも自分自身が消えそうだと感じていた。
いつ惨殺としか呼べない処罰が済んだのか、それを覚えてはいなかったけれど。
自分への罰はまだ始まったばかりだと知っていた。
「いやあぁ~~~~~~っ。ひぃっ、ひっ、ゆ、許し、てぇ~~~~っ」
暗闇の中で見えない何かによって、現実では王の狂気のような陵辱に泣き叫び続けるしかなかった。
恐ろしい王からの毎夜の呼び出しはアデルを壊すのには充分だった。
一度は逃げられた、その事実が更に恐怖を増幅させていたのだ。
痛くて、痛くて。激痛を与えてくる恐ろしい男に怯える毎日。この国の最高権力者である王の姿が目に焼き付いて離れない。
それでも、闇の底に堕ちていくような・・・慣らされてしまった快楽が残っている。
両親や一族を殺した憎い相手なのに、愚かな身体は疼きを持ち続け、痛みの奥深くに眠っている黒い感情を、持ってはならない性への開放を呼び掛けてくる。
このままでは狂ってしまう。そう思ったのだろうか。
幼い精神が自己を守ろうとした結果、元凶の王を身体が拒絶するようになっていた。
▲
一族を抹殺された幼い少年は、飢えた獣のように覆い被さっては蹂躙する恐ろしい王の正式な持ち物となり、豪奢な部屋を与えられていた。
本来ならば、愛妾として後宮に入る決まりだが、王の指示により王の寝所近くで過ごすことになったのだ。
肌に傷を残すことは無いが、王の冷酷な視線と冷徹な言葉は魂を傷つけて止まず、少年を萎縮させるのは簡単だった。
ほんの数日で鬱状態になり、日々進行していく心の病。
元凶の王が近づくだけで悲鳴を上げて蹲ってしまう。
その姿に不快を覚える王を見て、これはさすがに拙い、と筆頭侍従は進言することにした。
「このままでは壊れて使えなくなります。少しだけ時間を下さいませ」
無言で見返され、彼は背中に冷たい汗が流れてくるのを感じた。
まだ40代の王の気性は荒く、気に入らない者は本当に斬り殺してその場に捨てるのだ。眉一つ動かすことなく。
男女の別なく使い捨てる王。実は、後宮の女達の中にも王の訪れが無いことを喜んでいる者が多数いるという。
そんな王の激しい情欲を一手に受け止める相手が見つかったことは喜ばしい。筆頭侍従だってそう思っているのだ。
まだ13歳の幼い、しかも少年であることは問題だった。だから一度は逃がすことに同意したのだ。だが、連れ戻された今、自分の首を賭けてまで再度逃がすつもりはない。
筆頭侍従にとって、まだ暫らくは少年に壊れてもらうわけにはいかなかった。
せめて、もう一人でいいから、王に気に入られる者が出てくるまでは。
少しの間、治療させて下さい、そう訴える筆頭侍従の言葉に眉を顰めたものの、微かに顎を動かして王は頷いた。
不機嫌そうではあったが、無言で執務室へと戻って行くのを侍従達が息を潜めて見送った。
筆頭侍従は、誰にも気付かれぬようホっと息を吐いた後、背後に控える部下達を振り返って命じた。
「適当な部屋を準備して、あの子供を暫らく休ませろ。ああ、医師も呼ぶように」
上司に頷き、キビキビした足取りで廊下を曲がって姿を消す彼らを見ながら筆頭侍従は小さく呟いた。
「ふぅ。何とか説得出来たようだが・・・心臓に悪いな。まさか王がここまで気に入るとは思わなかった」
誰にも聞かれず廊下に落ちていく言葉。
城内の誰もが、これまで同様すぐに飽きられて終わる関係だと思っていた。
(子が出来ぬ男が相手で助かったな。もっとも、あれがもし女であったとしても妊娠したら王は見向きもされんだろうが。早々に切り捨てられるに決まっている)
憐れみを覚えるには、筆頭侍従の職に長く居過ぎた。
「・・・所詮、アレも数ヶ月の玩具でしかないが、出来るだけ長く保たせたいものよ」
王の気性を良く知る彼は、それでも一年は持たないと予感していた。最後は殺されて捨てられる運命だろうと。
まさか、この先何年経っても王の寵愛が変わらぬとは誰も思わなかったのだ。
この事実は、後年の筆頭侍従にとって苦い経験となった。
あの時、自殺あるいは病死させておけば、他国からの揶揄も嘲笑も受けずに済んだのに、と。
忠実な家臣とその一族全てを殺すほど、王はアデルに執着していた。
そのアデルを手引きして城外へと逃がす算段をしたのは筆頭侍従である。勿論、大臣達も同罪ではあったが、王の怒りはまず自分に向くに違いない。
今は誰もが口を噤んでいるが、いつ知られてもおかしくなかった。いや、王のことだから、もうとっくに分かっているのだろう。
だからこそ、筆頭侍従は出来るだけアデルを長く保たせ、王の機嫌を取ろうという安易な方向へと方針転換するしかなかったのだ。
アデルに拒絶されて憮然とする王、という珍しいものを見ただけで少しは気が晴れるというものだった。
壊される前に素早く引き離すことは出来たので、後は王室専属の医師と薬師にアデルを診せるだけでいいだろう。
難しいのを承知の上で、病状を早く治すように医師らへと指示を出した。
医師というのは地位を守ることを第一としているのか、王が関わっていることに難色を示し、最初は誰も診ることを嫌がってきた。
宥めたり脅かしたりして、ようやく何人かで専属を組むことが出来た。
「開放的な庭のある部屋を準備して静養させましょう。それが回復への一番早い方法です」
「何らかの安らぐモノを与えるのも良いでしょう。小動物などは心を癒すのに最適と言われています」
子供でも考え付くそれが本当に効くのか、と呆れたが他にあるのは薬物だと言われてしまえば、まあいい、と頷くほかなかった。
急ぎたいのはやまやまだったが、心の病気である。時間は掛かって当然なのだろう。
医師の薦めを受け入れて小動物を飼育させることにした。
やがて、少しずつだが良い兆候が見られる、という報告が上がるようになった。
小動物に自分から手を伸ばし、話し掛けることも増えた、と医師がにこやかに告げた時は、正直胸を撫で下ろしていた。
このまま元に戻らなかったら、医師だけでなく自分までも王に殺される運命が待っているからだ。
「これでようやく試すことが出来るな」
筆頭侍従は、薬師を呼び寄せ、ある調合をするよう命じた。
更にそれから数ヵ月後、日常生活を送れるまで精神が安定しているとの報告書が手元に届いた。
王からは、早くアデルを戻せと矢の催促だったが、念を入れて更に1ヶ月療養させることに決めた。
毎日、特別な薬湯を与え、睡眠導入剤を使用して暗示を与えていたからだ。
恐怖に怯える幼い心に少しずつ刷り込ませるように。
「私は王の持ち物。逆らうことは許されていない」
「王だけが我が主」
「王には絶対服従します。何をされても喜ぶことが使命。私の存在意義です」
暗示にどれほどの効果があるかは不明だったが、気休めでも構わなかった。
筆頭侍従にとって少年の存在は、それほど大したものではなかったからだ。
何れ捨てられる愛妾に、時間も金も掛ける勿体無さの方が大きかった。
さすがに壊れたままでは王の前に出せないから長期間を療養に当てたが、高価な薬や高度な医療を施す気は初めからなかった。
▲
5歳で王族の形代となり、13歳で王に凌辱された少年は一族を惨殺された後、精神を病んで治療を受けることになった。
暗示が効いたのかは難しい判断だが、愛妾となって5年が経った今も王の嗜虐嗜好の犠牲者である事実は変わっていない。
その王が訪れると聞いて恐怖を感じたのだろうか。
流れる涙を指で拭い、ようやく隙間からアデルが這い出て来た。
一人の侍女がさっと進み出て、水で濡らした布をその目に優しく当てて拭っていく。
「・・・ありがとう」
小さく礼を言うアデルに、皆がホっと微笑み合う。
「さあ、急いで準備に入りましょう」
「ええ、もう時間がないわ。・・・そっちのタオルを取って」
「衣装と装飾品を・・・。そうね、ここに全部揃えて持って来て頂戴な」
頼まれた侍女が数歩も行かないうちに、新たな頼みごとが増えていく。
「・・・あら、櫛が見当たらないわ。捜して持って来てくれる? 簪も幾つかお願いね」
「あっ、冷たい飲み物もお願い」
忙しく手と口を動かしながらも、アデルにすり抜けられる場合を想定して、7人の侍女は包囲網を敷いていた。
「2人で向こうの、・・・ああ、そこのソファでいいからここに運んで頂戴」
「鏡、・・・鏡はどこなの? 」
「ああもうっ、これ違うじゃないの。えっと、確か向こうに・・・」
口調は苛立ち混じりでも、小走りに隣室へと取りに行く侍女の顔は穏やかだった。
焦りながらも楽しそうな女性7人が一斉に動き出すと、途端に華やかな雰囲気が部屋を包み込でいく。
その慣れた空気に、自然とアデルも寛いでいった。
愛妾の埃に塗れた身体と髪を濡れた布で拭うと、侍女達は衣装をザっと再点検し、装飾品を横に並べ始めた。
1人が香を焚き、薬湯を準備し始める。
これは、王から命を受けた薬師が特別に調合したアデル専用の配合である。
「さぁ、お飲み下さいませ」
アデルは、侍女から渡されたそれを不味そうな顔でゆっくり飲んだ。
小さく笑った侍女の差し出す水を口に含むと、嚥下してから口を布で軽く拭っていく。
その手から布を受け取り、侍女が部屋を出て行った。
年長の侍女は恥ずかしそうに全裸になったアデルの腕を優しく取ると、大きな布を敷いた台の上にうつ伏せの状態を取らせた。
いつものように2人掛かりで、髪に振り掛けた香とは別の物を身体全体にじっくりと塗り込んでいく。
尻の狭間を女性の指に弄られ、アデルは羞恥に頬がカアっとなった。
そんないつまで経っても慣れる事のない愛妾を見て、皆は静かに微笑んだ。
今まで大勢の貢ぎ者を相手にし、子を強請る後宮の女達に飽きていた王が、アデルの物慣れない羞恥に喘ぐ可愛らしい仕草を好んでいたからだ。
嗜虐の性を隠すことなく成長した王の周りは、常に入れ代わりが激しい。
自然、王に阿る者達や気が弱く逆らわない小心者が目立つようになっていた。
その中でも大貴族や豪族達は、王を必要以上に持ち上げることに余念がない。
前王からの信頼も厚かった内務大臣と一族郎党が、王命により召集され、弁解する間もなく惨殺されたからである。
噂好きの民は勿論、王に仕える誰もがアデルに関心を持っていることを7人の侍女たちは知っていた。
「その生き残りの少年が愛妾となって、今も王の閨房を暖め続けているんだとさ。大変な可愛がりようだと言うから驚きだよな」
「誰にも見せないように囲っているらしいしな。後宮の女どもがイヤがらせをしたくとも、そりゃ出来ないよなぁ」
好き勝手な噂は瞬く間に国中に広がり、その姿を一目見ようと王宮の侍従に袖の下を渡す者が後を絶たなかった。
勿論、お気に入りの籠の鳥が王宮から出される筈もなく、アデルが愛妾になってから丸5年が過ぎようとしていた。
▲
王の愛妾が目を伏せ、身体を羞恥に震わせている頃、後宮でも同じ様な光景が繰り広げられていた。
50以上ある部屋の主人とその侍女達、大勢の召使い達が、久しぶりの宴に歓声と怒号を上げて騒いでいるのだ。
後宮の中で一番若い妃は、唯一の競合相手だと思っている女性の衣装を事前に調べさせていた。
「もっと締めて! ・・・駄目よ、まだ細くするのっ。構わないからもっと締めなさいっ。今度こそ、あの第3妃に負けるものですか」
この衣装では駄目かもしれない、とキョロキョロ視線を動かし、床にまで置かれている艶やかな衣装を見比べる妃に、侍女達は見えないように溜息を吐いた。
一番最初に後宮に入った妃は、王に見てもらう為より、自らの存在を皆に知らしめる目的で衣装を選んでいた。
「・・・そっちの、いえ、こっちかしら? ああ、それも見せて。・・・ちょっと、このクズっ、早くなさいっ!」
王妃となれるよう教育されてきた淑女は、長年放って置かれている現状に苛立ち、自分以外なら人でもモノでも文句を付けるようになっていた。
清楚さが漂う衣装よりも大胆な配色の衣装を選んだのは自分なのに、身体の前に当てた瞬間に衣装が気に食わないと怒りを露わにした。
「もうっ! あんたたち何してるのよ! これじゃ色が合わないじゃないのっ。この 馬鹿女! 手をお出しっ」
金切り声を上げながら侍女から差し出された鞭を手に取り、毎日のように標的にしている召使いの背を打った。
何度も何度も打ち込んで、ようやく気が済んだのだろう、鞭が床へと投げ捨てられていく。
赤ん坊の時から育てて来た妃のそんな姿を微笑みながら見ていた侍女は、
「こちらの衣装はいかがでしょうか。美しいその髪と透明な肌に良くお似合いでございますよ」
穏やかな言葉で妃の関心を衣装へと戻していった。
王を含む男性全てを怖がりつつも、自分が一番可愛い、いや自分だけが可愛いと信じている若い妃は、
「香水はまだ届かないの? ・・・全くっ、お父様は何してるのよ!」
どんな言動でも許してくれる甘い父親からの荷物の到着が遅いことに苛立っていた。
後宮に入る前から周囲の者すべてが可愛い自分を欲しがり、だからこそ何度も誘拐されそうになったのだ、と信じている妃は、着飾るモノは最高級品でなければ手に取る意味がないと思い込んでいた。
「ああ、早く世界で一番可愛い私の姿を王に見てもらわなくては。・・・今までは、あのバカ女達に邪魔されたけど、今日はこっちが攻撃に出てやるわ。まあ、その前に私の可愛らしさに悶絶して平伏するでしょうけどっ」
本気でそう宣言する自分の主から視線を外して侍女達は無心に衣装を掻き集めていた。ようやく決まった衣装をまた変更されないように早く隠さなければならないのだ。
「なんって可愛らしいのかしら、この私は。・・・変態たちが私を誘拐して手元に置きたがったのも無理ないわぁ」
金持ちの貴族の末娘だったからですよ、と呟く訳にもいかず、侍女の一人はこんな性格にした彼女の両親を馬鹿だと心の中で罵った。
両親の教育が、この愚かな若い妃の将来を変容させ、そして延長線にある国母になる夢を抱かせていた。
戦争上手な王族に生まれ、生糸関連の事業で富む国の元王女は、クスクスと笑って鏡を見つめている。
「ふふ、やっぱり私が一番美しいわね。この長い髪とくびれた腰、そして長い脚と細い足首。我ながら何度見てもウットリする美しさに眩暈しそうよ」
後宮に入ってすぐに、王の寵愛を少年に取られていると知ってしまった彼女は肩を落としたけれど、次代の王を虜にしてみせるわ、と心に誓っていた。
それだけの価値が自分にはあるのだと。
「良くお似合いですわ。さすが大国の王女と、皆から絶賛されるのが見えるようです。さ、こちらの紅を唇に」
一緒にこの国へと付いて来てくれた信頼する侍女の言葉に鷹揚と頷いた後、
「ねえ、今度はいい男がいるかしら。こんなところ真っ平だわ。私より劣る見栄っ張りの女ばかりなんだもの」
以前の意気込みは今ではすっかり消えてしまっていた。
肝心の世継ぎに、すでに若い愛妾や側室が大勢いることを知ったのだ。
「この国の男たちは愚か者ばかりね。あと少し待っていれば、財を持つ美女がやって来たというのに」
彼女は自分を最高の美女だと知っていたけれど、相手から望まれるのをただ待っているだけでは孤独な老婆になってしまうことも分かっていた。
だからこそ、この後宮から早く抜け出すことを現在の目標にし、標的を大臣の息子らに定めて、開かれる大きな舞踏会や催しに何度も出席しているのだ。
公の場では無表情で相手を品定めしてみるものの、この国には醜い男が多い、と毎回侍女に文句を言い続けるしかない日々が続いていた。
この国の世継ぎを産んだ女性を筆頭に後宮に暮らす全ての女性が、久しぶりの宴に舞い上がっても仕方がないのだろう。
何といっても、今回は王宮主催の舞踏会である。
普段は王以外の男性に会うことも出来ない後宮に閉じ込められているのだ。
王女、姫、大貴族の娘達の気持ちが最高潮に達しても誰も眉を顰めることはなかった。
ヴェール越しとはいえ、堂々と出席出来る数少ない宴のため、その興奮は恐ろしいほどである。
数ヶ月前から衣装や宝石を準備していても、気に入るまで何度も付け替えるのは当然といえた。
中には思い通りにならず、召使いに当たる主人も多々いたが、これも誰も咎めることはなかった。
そんな異常な興奮の裏に、もう一つ理由があることを分かっていたからだ。
今回の宴で、初めて愛妾が出席すると発表された時は本当に怒号が飛び交っていた。
長年燻っていた、後宮の女達の山よりも高いプライドが再燃したのも仕方なかった。
愛妾に負けるものかと実家の親達に金の無心や無理難題が雨の様に降り注いだのは、両親達にとって不運というものだったが。
大臣の一族とはいえ、すでに失脚した貴族の生き残り。
本来ならばアデルのように身分もない者が、それも男が王の傍に侍るなんて、と誰もが心の中では憤っていた。
王の気性が恐ろしくて、愛妾から寵を奪おうとするのは一部の妃だけだったが、男に、それも少年に王を奪われた屈辱は胸にクッキリと刻まれている。
しかし、苛烈な王が唯一寵愛する者を堂々と卑下することも出来なかった。
そんなことをしたら死が訪れるのは周知の事実。あの冷酷な視線で虫けらのように切り殺されて終わりだろう。
後宮の女達にも守りたい実家があり、例の一族の二の舞を踏んで全てを灰にするわけにはいかなかった。
▲
衣装を纏ったアデルを中央にして、7人の侍女が手落ちは無いかと眺めていた。
その怖いくらいの視線に頬がヒクつくけれど既に半分諦めており、もうどうにでもしてくれとアデルは沈黙を通した。
王が侍女達に宴の準備を言い渡したその日から、今日の為に特注されたドレスに宝石、髪飾りである。
彼女達はアデルにもカタログや見本を見せつつ、あれこれとおしゃべりしては顔を上気させ、嬉しそうに目を輝かせていたものだ。
ヴェールで見えないというのに髪型にも細かく拘り、何度も何度も髪飾りを変えてはその出来映えを確認された日のことを覚えている。
結局、腰までの長い髪は下ろしたまま丁寧に解され、艶が出るまで梳かれることになった。
清楚な装いにすべく、装飾品も上品なものを数品だけ厳選され、身を飾っていた。
アデルが嫌がったドレスは一見豪華で重そうだったが、その生地は超極細の高級糸で織られており、スリム軽量化により、華奢な体つきのアデルでも普通に装うことが出来るように作られていた。
異国から献上されたその生地は、王自ら保管庫から持ち出し、最高の職人を指名した後に、一針一針手縫いさせたものだという。
綺麗な刺繍が全面を飾ったドレスは、繊細で豪華な仕上がりとなって届けられ、アデルにピッタリだと侍女達の顔も喜びに綻んでいた。
顔を隠す薄い不透明なヴェールには高級レースが惜しげもなく使われ、これも職人の刺繍が華を添えていた。
王の手に吸い付くようなアデルの柔肌は薬師によって日々管理されており、剥き出しの腕や脚が、その艶やかさを見る者に魅せつけることだろう。
7人には、今から皆の感嘆の声が聞こえるようだった。
金髪と碧眼の逞しい筋肉質の王と、母親譲りの銀髪と紫眼の持ち主のアデル。
そんな2人が寄り添う姿は眼福さながら、招待者全員が、特に後宮の者達が目を見張ること間違いなかった。
王を守る護衛達の足音が廊下から聞こえて来た。
苛烈な王の、愛妾への固執。その溺愛ぶりは尋常でなく、18歳になった今も手放す気配は一向に見えない。
アデルに自分だけを見つめるよう強要し、周りを排除することに躊躇ない様はどこか幼い子供のようであったが、被害が大きすぎた。
ほんの少しでもアデルが他人や動物に興味を持った事に気付くと、容赦なく罰を与えて王宮から追放し、場合によっては切り殺す事さえあった。
それを知ったアデルは、二度と自分の所為で他人が傷つかないようにと、他人と交わることを避け、自然の動植物を視線で愛でることに留めるようになった。
それだけが、唯一、王宮での寂しさを慰める糧だと知っていたから、侍女達も王の居ない時を見計らって奥庭に連れ出していた。
「さ、アデル様。もうそこまで王がお見えですわ」
「ドレスはお脱ぎになって。・・・はい、このローブを着て下さいませ」
「髪のヴェールも今は外しておきましょう。大広間に行く前にお付けしますね」
せっかくの衣装を汚す訳にはいかないと、彼女達は大切な少年へと視線を合わせた。
この後、必ず王はアデルの身体に手を伸ばすに違いないからだ。
舞踏会に出るギリギリに着てもらうことで、王の傍らに初めて立つ愛妾が恥をかくことなく、その姿を人々に見てもらえる筈だ。
「・・・あぁ、そうね。王のお気に入りの杯を用意して頂戴な」
「椅子をもう一つここに持って来て・・・」
バタバタと動き回る侍女達の姿は、アデルにとって心温まる日常だった。
たとえ、それが恐ろしい人物を招く為の準備であっても。
テーブルに菊華水を用意させ、王専用のお茶の仕度が進められていく。
そうこうする内にノックが扉から聞こえて来た。
ガチャりと鉄の触れ合う音がして、ゆっくりと重い扉が開き始めた。
やがて堂々とした体躯を煌びやかな舞踏会用の礼服に包んだ王が入って来た。
すでに侍女達は、揃って床に跪き頭を下げている。
アデルもその場で深く一礼すると、王の足がソファへと進むのをじっと見つめた。
ドカっと王が座るのを確認していると、侍女達が目で合図しあう気配がする。
緊張に満ちた侍女達と同じようにアデルの胸の鼓動もいつしか速くなっていた。
別の者から水を乗せた盆を受け取り、侍女ネッサラが静々と王の前に進み出た。
跪き、捧げ持った盆を王が取り易い高さで止めて俯く。
チラッとそれを見た王は、気だるそうに杯を掴み、一気に喉へと注ぎ込んだ。
無造作に、だが優雅な所作で杯を戻し、ネッサラを下がらせる。
その様子を見ながら、アデルは王に歩み寄った。
全裸に薄紫のローブで身を包んだ愛妾が足元の床へ座ろうとするのを、王は無言で腕を伸ばして腰を抱くと、自分の膝の上に座らせていく。
頬を染めて王の胸に潜り込むように俯いたアデルの背を、王が淫靡に撫で始めた。
ピクっと身体を震わせ、イヤイヤと顔を左右に振り、その手から逃れようともがいた。
そんなアデルを咎めることなく、背から尻へと大きな掌が下りてく。
「っはあんっ! んんっ・・・」
小さく喘ぐ声が部屋の中に響き始める。
舞踏会へ向かう前に、いつものように王は愛妾の身体で愉しまれるのだと察した侍女達は、音を立てずに壁へと下がっていった。
太い指2本が無造作に尻の穴の奥深くに入り込み、中をぐちゅぐちゅと音を立てて掻き回していく。
「アレを用意しろ」
喘ぐアデルを見つめたまま、王は無表情で控えている侍女頭のアスキーンにそう命じた。
「2匹、大きいのだ」
その指示にアスキーンは頷くと、背後の侍女達を振り返って視線で指示を与えていく。
彼女達が小走りに去るのを確認すると、アスキーンは指の動きを邪魔しないように注意しつつ、王の上着を脱がさせてもらった。
それを戻ってきたネッサラに渡し、隣室に持っていくよう指示を出した。
入れ替わるように、ジブラサとビラチェが盆に大きなビン1つずつを乗せて戻って来る。
アスキーンはビンの1つを受け取ると、床に膝を付き、ゆっくりと王へと差し出した。
喘ぐアデルの尻に、王のもう片方の指2本が入り込み、大胆に横に開いていく。
ビンの中で蠢くモノの気配がアデルをより一層竦ませているが、王はそれを気にすることなく指を動かし続けた。
大胆にそこが開かれると、王は視線だけでアスキーンにビンの蓋を取るように指示を出した。
中に入っているモノが上手く届くようにと、愛妾の身体を軽く動かし続けながら。
開かれた入口の方へとビンの中の蠢くモノが方向転換し、やがてアデルの尻へと入り込み始めた。
「ひぃぎぃいぃいいいいいい~~っ!」
アデルは身体を大きく震わせ、涙を零して逃れようと必死になった。
その痛痒い、無数の細い足達が奏でるムズムズ感と刺激。
何より蟲が敏感な場所へ入ってしまった恐怖に。
指で開かれてしまった尻の奥に蟲がズブズブと入っていく。
抜け出そうとする蟲の後ろを長い指で中へ押し込むと、王はその感触に咽び泣くアデルの姿に目を細め、じっくり観察して愉しむことにした。
「ひぃぐうううううううううぅ~。ひぃぎぃっ、ぎっ、ぎぃひいいい~~っ」
何度もされた事とはいえ、余りの気持ち悪さにアデルの額にはビッシリと冷や汗が浮かんでいた。
その蟲は太さ4cm、全長5cm。
目も歯も無く、長い舌が特徴で短毛ミミズに無数の足が付いている。
その毛穴から非常に珍しいモノが排出されるので有名だった。
この国の薬師が創った高級蟲で、世界中に需要が有る。
これを創らせたのは数代前の王であり、後宮の女達を自分好みに調教するのに使われたと言われている。
内壁を傷つけずに女達の矜持を剥ぎ取り、時には心を壊すのに最適な道具。
精液や淫液など全ての排泄物が好物であり、その臭いを嗅ぎ取って無数の足で内壁を擦って進むのだが、その際に分泌される液体が排泄物と反応して媚薬効果を齎すのだ。
時間の経過と共に嫌悪が快感へと変わっていく恐ろしさ。
女性ならずとも恐れるモノ。
そんな蟲がアデル尻の奥へと収まっていた。
蓋を閉めて次のビンを受け取るアスキーンの手元を、空ろな目でアデルが見つめていた。
諦めと仄かな悦びがアデルの思考を更に惑乱させ、知らず舌で唇を舐めて次が与えられるのを待っている。
依然として王の指に支えられて大きく開いたままの尻穴に、新たなビンが当てられた。
やがて、ビンの入り口がスポっと隙間無く挟まって動かなくなった。
敏感なアデルの内壁がビンのふちを包み込んだのだ。
ビンの中で蠢いていた大きな蟲が焦れったく進んでいく。
暫らくして、全長5cmの蟲を前方に咥えたまま、太さ5cm、全長6cmの蟲も完全に中へとその姿を消してしまった。
アデルの拡張された尻穴の奥深くへと。
「あぎぃっ! ひぃっ、ひっ、いぃぎいいぃいいいいいいいいい~~っ。ひっ、ひぃいいいいいいい~~~~っ!」
尻たぶを王の掌に撫でられたまま、アデルが絶叫を上げる。
中を蟲の舌で微妙に擦られ、2匹が蠢く気持ち悪さに犯され続けているのだろう。
逃げ惑う身体を王はしっかりと腕に抱き止めると、気紛れに愛妾に口付けを繰り返した。
何度も大きく跳ね、ひいいっと腕の中で喘ぎ続ける愛妾を満足そうに見つめている。
「行くぞ」
アスキーンに鋭い視線を向けると、王はアデルを姫抱きに抱え直して立ち上がった。
ヒクヒクと身体を震わせ、唇を噛み締めるアデルの額に軽く口付け、王は愛妾を連れて部屋を後にする。
背後に必要な物を準備した侍女7人が続いていた。
蠢き続けるモノに嬲られたまま、アデルは王に連れられ大広間の一つ手前の部屋まで運ばれていった。
「あぎぃっ。うぐぅがあっ、・・・がっ、はがぁあああ~~~~! ひぎぃ、ひっ、ひゅ、ひゅぎぃひぃいいいい~~~~っ」
王が椅子に座ると同時にアデルも膝の上に下ろされてしまう。
その衝撃に尻の穴の奥で蟲がグルグルと動き回り、涙混じりの叫び声を上げた。
どんなに動き回ろうと、王の膨張したモノを全て収めることの出来るそこが裂ける事はなかった。
充分な歳月を掛けて調教されており、優しく妖しく王を締め付けるよう念入りに拡張されているのだ。
自分の欲を満たすことにした王は、愛妾の眦に浮かんだ涙を舌で舐め取るとソファの上でうつ伏せにさせた。
太い指で尻を大きく開けると蟲を摘んで引き摺り出していく。
「ひっ、ひぎぃ! あぎぃいいいいいい~~~~! ひゃがっ、がっ・・・はっ、・・・ぁ・・・、あっ、あひぃいいいい~~っ」
抜かれる度に粘膜が擦られて、気持ち悪さにアデルは泣き叫んで哀願を繰り返した。
「いひいぃ~~~っ、・・・やっ、いやぁっ。もうっ、もういやぁああ~~~~っ。・・・ぇっ・・・、お、おね・・・いしますぅううぅ。ゆ、許し・・・」
何度も何度も、もう許してと涙声で訴える可愛い愛妾の頼みをワザと逆に受け取って、王は許しを与えてやった。
「ほう、抜かれたくないか。お前がそんなに頼むなら、このまま入れて出るとしよう」
「・・・っ・・・! ひ、ひいいいい~~~! ぎぃ、ぎぃひいぃいい~~~~~っ」
急いで首をプルプルと振って拒絶した。けれど、恐怖に固まったのか言葉が中々出て来ない。
アデルの慄きに身体が反応し、次の蟲を掴んで入ったままの王の指を締め付けようとする。
絶妙の締まりに、王は口の端を上げて嗤った。
自分の欲を後回しにしても構わない程に、この愛妾の素直な身体と心を気に入っていた。
暫らくその締め付けを愉しんでから、ようやく蟲を引き出してやることにした。
涎を口端から流し、赤い頬に涙が零れ出るアデルの表情は、どこか恍惚としていて愛らしかった。
ブルブル震える愛妾の唇を奪うと、舌を差し込んで口腔を舌で嬲ってやる。
たっぷりと自分の唾を呑み込ませて、嚥下していく咽喉を見つめた。
ハア、ハアっと荒い息を吐くアデルを抱き込んでソファに座ると、膝に抱え上げて落ち着かせてやった。
部屋に控えていたアスキーンに視線をやり、準備の指示を出した。
心得た彼女は背後の部下達にヴェールの支度を急がせ、自分は抱えたドレスの皺を伸ばしながらアデルへと近寄って行った。
事実上のアデルのお披露目が、間も無く開始されようとしていた。
▲
煌びやかに着飾った大勢の客人達。
後宮の女性達の指すような視線が痛い。
興奮に勃ち上がった小ぶりのペニスを王に弄くられ、尿道を太い指で塞がれて頬がカアっとなる。
直接には見えないといえど、ドレスの不自然な盛り上がり方で全員にバレていると分かっていた。
先程、大広間に盛大な拍手で迎え入れられた王は、アデルを膝に乗せて玉座に腰を据えてしまったのだ。
逃げたくても逃げることが出来ない。
他人に自分のあられもない姿や、興奮に火照る顔を見られる時間が一刻も早く終わることを願うしかなかった。
王の信じられない態度を見た客人は驚き、まさかそうするとは、と国の重鎮達も仰天した様子で誰一人声を出さない。
静まる広間の中で王の毅然とした態度と、愛妾の身動く音の対比が鮮やかにその場を支配していた。
誰もそれを常識外れだと、声高に指摘することは出来なかった。
後宮の妃達、貴族の女性達も怒りで顔を真っ赤にさせたものの声を上げることは控えるしかない。
面白くなさそうに見下ろす王の機嫌を損ねるなど、率先してやる者など一人も居ないのだ。
(いやぁああ~~~っ、もう許してっ。だ、誰かっ、お願いだから助けてっ)
この5年間、言葉に出さずとも視線で訴えて来た。けれど、誰一人としてそれに応える者などいない。
そう知っていてもアデルの濡れた目は救いを求めて彷徨っていた。
他人の前で男に身体を弄られて喘ぎたくなかった。
こんな恐ろしい男の与える行為に慣れてしまった身体が憎らしい。全身が過剰に反応して沸々と何かが沸き上がっているのが分かった。
助けて欲しいのに、真逆の懇願が今にも口から溢れ出そうで怖かった。
(ここは嫌いっ。ここで犯されるなんて嫌ぁ~~っ)
アデルはピリピリする空気を敏感に感じ取り、ひと時も休むことの出来ない緊張感に襲われ続けていた。
やがて、耐えられないと身体が悲鳴を上げるようにガタガタと震え出し始める。
激しく身震いする愛妾に気付いた王は、優しくアデルを抱えると腰を上げた。
「後は好きにしろ」
そう、筆頭侍従に言い捨て、ゆったりと寝所へ戻って行った。
恐ろしいほどの沈黙を背にしても、その足取りに変化はなかった。
強引に伸し掛かられ、何度も何度も尻の穴を指と舌で解されていた。
時間を掛けて拡張されたそこを太くて熱いモノで貫かれ、悲鳴を上げたのは数刻前のこと。
それからは嬲るように、ゆっくりじっくりと浅く突き込まれては引き抜かれることを繰り返されている。
「あ、はあぁぁぁ~~っ。・・・はぁう~~~~、んんっ。あっ、あっ、あはぁああああ~~~~~っ。ん、んんっ! あ、あんっ、あぁんっ」
太い男根がグルっと尻の中で回され、片足が王の肩から外れてピンと突っ張った。
その足首から精液が一筋流れ落ち、その感触にビクっと身体が震えて王のモノを締め付けてしまう。
「・・・くっ」
王が呻き、アデルに突き入れていたモノを更に奥へと強引に押し込んでいく。
「あぎぃいいいいいいいいい~~~っ。ひっ、ひぃいいいいい~~~~~! ・・・ひっ・・・、あひぃっ。ひぎゅうぅ、うぐうぅう~~~~~~」
ドプっドプっと大量に精液が注ぎ込まれ、失いかけていた意識が引き戻された。
「ふうっ」
満足気な王の声した。
憎くて、恐ろしい、すぐにでも逃げたい相手なのに、何故こんなにも胸が痛いのだろうか。
アデルには何が正しくて、何が間違っているのか、もう分からなかった。
▲
「ひぎぃいいいいいい~~~~っ。・・・あ、あっ、ああぁあああ~~~~~~~んっ!」
中に注がれて感じたのだろう。ブルっと震える愛妾の何もかもが可愛いくて堪らない。
気持ち善すぎて大量に出したせいで少し萎れたモノを、濡れている尻穴から抜き出した。
代わりに指で乳首を捻ってやる。
「ひゃぃいいっ!」
小さく身を震わせ続けるアデルのペニスの根元には、太い環が嵌められていた。
特注に相応しく、貴重価値の高い宝石が無数に飾られている。
そのペニスの先端より下の部分は私の手で穴を開け、素早く極小の真珠ピンを両端に嵌めるように貫いてあった。
泣き叫ぶアデルが可愛くて、そのピンの中央に強度のある乳白色の糸を潜らせて輪を作ってやった。
触ったり掴んで揉んだのが良かったのか、男にしては大きくなった長い両乳首にも同じ糸が結わえてある。
愛妾がイキたくなると糸を同時に引いて、それを阻止して愉しむ為の仕掛けだった。
全てを奪ったあの日から、アデルは王である私のオンナであり、奪い尽くす獲物でしかなかった。
あくまで私を喜ばせる存在であり、自分の欲は後回しにしなければならない。
若くて経験の少ないアデルは、我慢出来ずに何度も吐精してしまい、それを躾けるという口実で環を嵌めて調教を楽しんできた。
勿論、これからもそうするつもりだ。
こんなに楽しい、聞いていて下半身が痺れる悲鳴の持ち主をどうして手放せようか。
「あひぃっ。い、いひぃいいい~~~っ! ・・・んっ、んん~~っ、お願いっ、・・・イ、イキたいっ、あぁ~~っ!」
涙をボトボト零して哀願する愛妾に私は満足し、許しを与えることにした。
「お、お願いで・・・。ひっ、ひぃいい~~~んっ、んんっ! ・・・も、もうっ、ゆるし、てぇえええ~~~~!」
但し、環を嵌めたまま精液を零さず、オンナのように気をヤルという条件で。そう耳元で囁いてやる。
「ひっ、・・・む、むりっ、ですっ。い、やあぁああああ~~~~~っ。ゆ、許してぇえええ~~~~っ」
必死になって私に視線を合わせてくる姿に自分の唇が歪むのを感じた。
苛めれば苛めるほどに、この愛妾は清楚さを保ちつつも淫らになっていく。
その様が、無表情で冷酷だと呼ばれる私の胸を熱くさせるのだ。
「イクといい」
すでに激しい抜き差しの余韻も消え、今は内壁に注がれた淫液の熱さに羞恥を覚えているだろう愛妾を視姦してやった。
これまでの調教の成果だろうか。許しを与える王の低音に感じたアデルは、身体が望むまま射精していた。
「あぎぃいいいいいい~~~~~っ。ひぎいぃっ、ひっ、ひぐぅっ。うおぉ、おぐぅおぉおおうぅううう~~~っ」
可愛らしいイキ様だと薄く笑った王の指が、まだ途中だというのにペニスの紐へと伸びてきて、それを引っ張った。
「ひぃっ! ひぎぃいいいいいいい~~~っ! ・・・んっ、んんっ! い、いやっ、やだっまたっ・・・。いっ、いっちゃうっ、いっちゃうのぉおおおおお~~~~」
王は最後の一雫をも擦り付けるが如く、醜くて太いモノをアデルの乳首に押し当てて汚れを拭っていた。
悔しくて悲しいはずなのに、それにさえ感じている自分を自覚してアデルの頬が真っ赤に染まった。
「うぅっ。ひっ・・・ひぃい~~~~っ。・・・やっ、そこは・・・い、やぁああ~~~~っ、いやだぁっ」
ピクピク震えている尿道に王の指が伸びるのを見ていたアデルは、必死になって首を振った。けれども、そんな自身を裏切るかのように脚は大胆に開いたままで閉じる気配はなかった。
「は、はぁううぅ~っ! んっ、んんっ、・・・いいっ! あぁああ~~~~っ、いいっ、いいのぉおおお~~~~~~っ」
グブっと差し込まれた指を奥へと誘おうとするアデルの腰の動きが、王の視界を楽しませていた。
ある国に、一族全員を抹殺するほど独占欲の強い王がいた。
そんな王に囚われ寵愛される小さき花。
望まぬ淫らさで王を惹きつけた可憐な花は、今日も王の寝室で咲き誇っていた。
冷酷で無口な王様に目を付けられた少年の話。 ※ 蟲を使った行為あり。
冬めいてきた或る日のこと。
王宮の中は舞踏会の準備に追われていた。
先年、王の叔父である大将軍が長患いの末に亡くなり、この半年、宮廷では華やかな催しを開いていなかった。
その為、今宵の舞踏会には大勢の貴族や高級軍人が、その家族を引き連れてやって来るのだ。
招待客のリストは完璧で変更もなく順調に進んでいたのだが、昨日になって更に人数が増えることが判明していた。
付き添える人数は貴族の地位や職務で決まっているというのに、高位の女性貴族が複数人、絶対に必要だと強引に友人や愛人その付き添いを増やしていたのだ。
「ふざけてんのか?」
「許したのはどいつだっ! 一発殴らせろ」
その女性達に用意される部屋数は問題なく増やされた。
但し、結果として大勢が追い出され、別の部屋にひとまとめで移動させられることになった。
移動してきた人数に怒った者が不満をぶちまけて何人かが追い出されると、その追い出された者たちを押し込む部屋が新たに必要となり、繰り返される悪循環。
最初に毅然と断れなかった役人の無能さにブチ切れ寸前の侍従や侍女達は、朝から王宮中を大忙しで動き回っていた。
王宮の最奥、王の私室に一番近い部屋も似て非なる理由で大変切羽詰っていた。
あと少しで夕刻だというのに、王の愛妾である少年が駄々を捏ね続けていたからだ。
ただ、少年は舞踏会の日取りが決まった時から抵抗しており、今も自分より背の高い本棚の後ろの小さな隙間に入り込んで出ようとはしなかった。
刻々と迫る開催時刻に、ついに7人の侍女達は切り札を出した。
「あと一刻で王がお見えになられます」
その言葉に、ビクっと少年の身体が震えるのを彼女達は静かに見守った。
優しくて気立ての良い少年を彼女達は敬い、その心が汚れないよう細心の注意を払って教育してきた。
元からの気性もあるのだろうが、少年は王唯一の愛妾であることに驕ることなく、侍女達を母のように、姉のように頼ってくれていた。
心優しく壊れやすい、繊細な魂の持ち主なのだ。
そんな少年を視線一つで支配し、その凶悪な振る舞いで恐怖させる。
彼らの王は、国民全ての畏怖と尊敬の象徴だった。
街道は活気付く人々の往来で賑わっていた。
誰もが、王宮主宰である舞踏会の開催を喜んでおり、この好機に頬を緩ませている。
王宮が催しを自粛していた為、貴族も裕福な商人も無駄に宴を開く訳にもいかなかったのだ。
この街は王と貴族の為の専門職が多く集まっている。
その職人に仕事が回らなくなり、その家族もまた暮らしを節約するしかなかった。
大きな市場で働く店主や店員、家族にも影響は大きく、皆が早く喪が明けることを心の中で祈り続けていた。
今回、ようやく舞踏会が発表されたことで、住人達はホっと胸を撫で下ろして喜び合った。
他国からの高貴な客人に付き従う者達が、この街で買い物をする機会もあるだろうし、もしかしたら、その主を秘密裏に案内してくるかも知れないと。
舞踏会場で彼らに張り合うつもりなのか、この国の貴族達も大量の品を発注してきていた。
今迄の分を取り戻す勢いで金が国中を回っており、商売も順調に伸びていた。
久しぶりに躍動する街で笑顔を見せている国民には、もう一つ楽しみがあった。
国中に知れ渡っていることだが、尊敬する王には後宮の女達を退けて愛でる花があり、その溺愛ぶりは有名だった。
決して誰も近付けず、誰にも見せないその花は、今年18歳になる儚げな少年だという。
今回初めて、その少年が公式の場に姿を見せると噂になっており、後宮の高貴な女性達との戦いが起こるのではないかと、賭けの対象になっているのだ。
勿論、本当に戦うのではなく、衣装や宝石の豪華さで競うであろうそれを、国民代表として招待された者達の評価を集計して勝者を決めることになっていた。
何と言っても王の一番のお気に入りであり、愛妾が圧勝するに違いないと誰もが思ってはいたものの、やはり番狂わせを望む者達も多く、人が集まる場所ではその話題が必ず出るほどだった。
▲
5年前、その少年は目前で両親と一族全員を殺されていた。
王宮に招かれ、全員が広間に揃って跪いたその瞬間に。
阿鼻叫喚、逃げ惑う親族達が次々に切り殺されるのを、傍に居た兵士に引き摺られたまま、呆然とその惨状を見つめていたという。
余りの光景に思考はストップし、少年はやがて気を失った。
その彼を殺すことなく保護したのが、親族の抹殺を命令した王であった。
将軍が少年を切り殺そうとした寸前に、王の一声で救われたのだ。
いっそ殺されたほうが良かったのかもしれない。
その夜、王の褥に連れ込まれ、憎む暇も与えられずに陵辱、蹂躙されたのだから。
余程気に入ったのか、少年は連日寝所に呼ばれ続けた。
既に王には跡継ぎがおり、誰も異を唱えることはなかったと言われている。
実は、何人かの臣下が苦言を呈しており、その事実を知っている侍従数人は彼らがいつ切り殺されるかと本気で心配していたようだ。
今現在も彼は王の手厚い庇護の下、夜毎寝所に招かれているようで、後宮では怒り狂った女達が夜毎恨みを呟いている、そんな噂がまことしやかに囁かれていた。
一族全員の抹殺の理由は判明しておらず、何か問題を起こしたのだろう、と納得する者が多かった。
これが、愛妾について国民の知る事実だった。
▲
今では知る者は少ないが、愛妾アデルは元々王家の為の形代だった。
王の初めての息子が13歳で病死し、慌てた大臣達によって神官が呼ばれると、その神官のお告げにより、神の怒りを避ける手段を二つを実行することになったのだ。
一つは、まだ幼い次男が無事成人するまでの身代わり(形代)を用意すること。
二つ目は、その形代を王宮の敷地内に住まわせ、神への捧げモノとして幽閉することだった。
勿論、誰も近付いてはならない、そう条件が付いていた。
内々に選考が行われ、自然と身分の低いものは排除されていった。
それは当然として受け止めつつも、候補に挙がった誰もが幼い子供を引き渡すのを躊躇い、何とかして拒否しようとする。
このままではらちが明かないと、大臣達が籤引きを行って形代を決めることになった。
息詰まる部屋の中。やがて、色の付いた棒を一人が引いた。
そう、アデルの祖父の兄、内務大臣である。
一族の中から選ばれた5歳の少年は、泣き叫んで抵抗する両親から引き離され、王宮へと連れて来られた。
誰も訪れない廃屋同然の小さな離宮に幽閉されたのだ。
1ヶ月に一度、遠くから見つめるだけという面会が内務大臣に許され、痩せてはいたが日々成長していく少年の姿を、心配する両親に報告することが出来たのが救いだろう。
8年後、跡継ぎの王子が無事成人すると同時に、アデルの役目もようやく終わりを迎えた。
自分の一族から形代を出さずに済んだ高位貴族達の懇願で、証拠隠滅に切り殺される心配はなかった。
だが、すぐに帰って来るはずだった息子が戻って来ない。両親は不安を覚えたものの抗議することも出来ず、じっと待ち続けた。
それから暫らくして、彼が実家へ戻される日がやってきた。
王が隣国に招待されて出立する日のことである。
手元に戻って来た我が子を抱きしめ泣いて喜ぶ両親に、アデルは初めは少し遠慮ぎみだった。
それでも嬉しかったのだろう。はにかむように静かに微笑んだという。
まだ幼いその身体に潜んだ、発狂しそうな疼きを必死に耐えながら手を伸ばして抱きついた。
隣国へと王が長い旅に出発する2週間と少し前のこと。
筆頭侍従は形代の件を報告する為、王へと跪いた。
「無事にお世継ぎである王子が成人されましたので、実家へと戻すことになります」
よくある簡単な報告の一つに過ぎない、そう思っていた。
王が顔を見せろ、と仰るまでは。
それでも、何かの気紛れだろう、と安易に考えていた。
(この8年間、一度も興味を示さなかったのにな)
驚きつつも、その形代の少年を王の前へと連れて来るよう部下に命じていた。
その後の展開は早かった。筆頭侍従が呆然とする間に、幼い子供が悪い大人の毒牙に掛かったのだ。
初対面で何を感じたのか誰にも分らない。
王は、床に片膝を付いて震えるアデルの腕を掴んで強引に立たせると、驚いて固まる少年を引き摺って広間から出て行ってしまわれたのだ。
ボーっとそれを見送っていた侍従達が、慌てて王を追い掛けた。
追い付けないまま寝室前の廊下に来てみると、そこには痛みに悲鳴を上げて助けを呼ぶアデルの叫び声が響き渡っていた。
事情を知った内務大臣や他の大臣達、筆頭侍従も扉の外で諌めてみたものの聞き入れられる筈もなく。
仕方が無い、飽きるまでの我慢だと、蒼白になる内務大臣を皆で慰め、殺されないよう注意することを約束した。
何かの気紛れだ。次の朝には解放される。誰もがそう思っていた。これまで王の寝所で夜を過ごした者は一人も居なかったからだ。
だが、その目論見は外れてしまい、一夜のみならず毎夜寝室から出すことなく寵愛する王に誰もが驚愕を隠せなかった。
このままではアデルが壊れるに違いない、と。
何より、緊張したバランスで成り立っている後宮が揺れてしまうだろう。
大勢の妃や妾に噂が入れば、大変な事が起こるのは想像出来た。
今でさえ滅多に訪れない王が、女である自分達よりも少年を選んだと知ったらどうなるだろうか。
せっかく平和が保たれているのだ、面倒を起こすことはない、と大臣達で協議した結果、旅に出る王の目を盗んでアデルを実家へと戻すことが決まった。
▲
予定通り隣国へと旅立つ際に、王は自分が戻るまでアデルを監禁しているよう筆頭侍従に命じていた。
それに恭しく頷いた筆頭侍従だったが、閉じ込めている少年の部屋の扉を大臣達の前で開いていった。
王には、寝室の窓を開き、飛び降りて死んだと告げることになっていた。
信用されないと分かっていても、死んだ人間に興味を持ち続ける王など考えられなかった。
逃げ出した少年を切り殺すよう命じるほうが現実的であり、それはこちらにとっても都合が良かった。別人の死体を用意して殺したと伝えれば良いのだから。
5歳で両親から引き離され、孤独に蝕まれていたアデルの精神は幼いままだった。そこに恐ろしい大人の男からの凌辱が与えられ、魂を失う一歩手前の状態だった。
虚空を見つめ、無音の世界に逃避していたアデルは、最初扉が開いたことに気付かなかった。
自分の身体が持ち上げられ、馬車に乗せられて実家に戻ったことさえ現実とは思えなかった。まるで死ぬ前に神様が見せてくれる優しい夢だと、そう思っていたのだ。
それでも両親と再会し、壊れ掛けていた感情を徐々に取り戻していくアデル。
その姿を見て、内務大臣の胸もようやくホっとしたのだった。
それから数週間が経った或る日のこと。
王宮から一族全員の招集が入った。
「一体、何事だ」
「どうして全員が呼ばれたんだ。王は明後日にならないと帰国しない筈だろう」
「子供達まで集合だと? 何故なんだ」
訳が分からなかったが、誰も大して不安を抱くことはなかった。
これまで不正や謀反など起こした者は一族におらず、アデルの件もまだ王にバレるには早過ぎるからだ。
まさか、王が都へ戻る途中でアデルの件を聞き、激怒しての召集だとは考える筈もない。
早馬に乗り換え、極秘の内に王宮に戻って来た王は、さっそく大広間へと向かった。
自分の気に入りを勝手に奪った者達を、この世から全て葬り去る為に。
突然現れた王に一族全員が驚いたけれど、常の如く無意識に頭を垂れていた。
その瞬間を見計らったように、王が動いた。腰に着けていた剣を引き抜きながら。
そうして—。
アデルの目前で、両親と優しい親族達が惨殺されていった。
あまりに悲惨な光景に、広間に集まっていた他の大臣達がアデルの方へと視線を逸らせた。
それはただ単に、その場所だけが王の怒気から免れていたに過ぎない。
けれども、アデルは彼らの視線を別の意味で捉えてしまった。
全てが自分に起因している、と。
その真実が幼い少年の心を押し潰していくのに時間は掛からなかった。
アデルは暗闇の中に漂っていた。
暗くて寒いその場所は安全から程遠く、今にも自分自身が消えそうだと感じていた。
いつ惨殺としか呼べない処罰が済んだのか、それを覚えてはいなかったけれど。
自分への罰はまだ始まったばかりだと知っていた。
「いやあぁ~~~~~~っ。ひぃっ、ひっ、ゆ、許し、てぇ~~~~っ」
暗闇の中で見えない何かによって、現実では王の狂気のような陵辱に泣き叫び続けるしかなかった。
恐ろしい王からの毎夜の呼び出しはアデルを壊すのには充分だった。
一度は逃げられた、その事実が更に恐怖を増幅させていたのだ。
痛くて、痛くて。激痛を与えてくる恐ろしい男に怯える毎日。この国の最高権力者である王の姿が目に焼き付いて離れない。
それでも、闇の底に堕ちていくような・・・慣らされてしまった快楽が残っている。
両親や一族を殺した憎い相手なのに、愚かな身体は疼きを持ち続け、痛みの奥深くに眠っている黒い感情を、持ってはならない性への開放を呼び掛けてくる。
このままでは狂ってしまう。そう思ったのだろうか。
幼い精神が自己を守ろうとした結果、元凶の王を身体が拒絶するようになっていた。
▲
一族を抹殺された幼い少年は、飢えた獣のように覆い被さっては蹂躙する恐ろしい王の正式な持ち物となり、豪奢な部屋を与えられていた。
本来ならば、愛妾として後宮に入る決まりだが、王の指示により王の寝所近くで過ごすことになったのだ。
肌に傷を残すことは無いが、王の冷酷な視線と冷徹な言葉は魂を傷つけて止まず、少年を萎縮させるのは簡単だった。
ほんの数日で鬱状態になり、日々進行していく心の病。
元凶の王が近づくだけで悲鳴を上げて蹲ってしまう。
その姿に不快を覚える王を見て、これはさすがに拙い、と筆頭侍従は進言することにした。
「このままでは壊れて使えなくなります。少しだけ時間を下さいませ」
無言で見返され、彼は背中に冷たい汗が流れてくるのを感じた。
まだ40代の王の気性は荒く、気に入らない者は本当に斬り殺してその場に捨てるのだ。眉一つ動かすことなく。
男女の別なく使い捨てる王。実は、後宮の女達の中にも王の訪れが無いことを喜んでいる者が多数いるという。
そんな王の激しい情欲を一手に受け止める相手が見つかったことは喜ばしい。筆頭侍従だってそう思っているのだ。
まだ13歳の幼い、しかも少年であることは問題だった。だから一度は逃がすことに同意したのだ。だが、連れ戻された今、自分の首を賭けてまで再度逃がすつもりはない。
筆頭侍従にとって、まだ暫らくは少年に壊れてもらうわけにはいかなかった。
せめて、もう一人でいいから、王に気に入られる者が出てくるまでは。
少しの間、治療させて下さい、そう訴える筆頭侍従の言葉に眉を顰めたものの、微かに顎を動かして王は頷いた。
不機嫌そうではあったが、無言で執務室へと戻って行くのを侍従達が息を潜めて見送った。
筆頭侍従は、誰にも気付かれぬようホっと息を吐いた後、背後に控える部下達を振り返って命じた。
「適当な部屋を準備して、あの子供を暫らく休ませろ。ああ、医師も呼ぶように」
上司に頷き、キビキビした足取りで廊下を曲がって姿を消す彼らを見ながら筆頭侍従は小さく呟いた。
「ふぅ。何とか説得出来たようだが・・・心臓に悪いな。まさか王がここまで気に入るとは思わなかった」
誰にも聞かれず廊下に落ちていく言葉。
城内の誰もが、これまで同様すぐに飽きられて終わる関係だと思っていた。
(子が出来ぬ男が相手で助かったな。もっとも、あれがもし女であったとしても妊娠したら王は見向きもされんだろうが。早々に切り捨てられるに決まっている)
憐れみを覚えるには、筆頭侍従の職に長く居過ぎた。
「・・・所詮、アレも数ヶ月の玩具でしかないが、出来るだけ長く保たせたいものよ」
王の気性を良く知る彼は、それでも一年は持たないと予感していた。最後は殺されて捨てられる運命だろうと。
まさか、この先何年経っても王の寵愛が変わらぬとは誰も思わなかったのだ。
この事実は、後年の筆頭侍従にとって苦い経験となった。
あの時、自殺あるいは病死させておけば、他国からの揶揄も嘲笑も受けずに済んだのに、と。
忠実な家臣とその一族全てを殺すほど、王はアデルに執着していた。
そのアデルを手引きして城外へと逃がす算段をしたのは筆頭侍従である。勿論、大臣達も同罪ではあったが、王の怒りはまず自分に向くに違いない。
今は誰もが口を噤んでいるが、いつ知られてもおかしくなかった。いや、王のことだから、もうとっくに分かっているのだろう。
だからこそ、筆頭侍従は出来るだけアデルを長く保たせ、王の機嫌を取ろうという安易な方向へと方針転換するしかなかったのだ。
アデルに拒絶されて憮然とする王、という珍しいものを見ただけで少しは気が晴れるというものだった。
壊される前に素早く引き離すことは出来たので、後は王室専属の医師と薬師にアデルを診せるだけでいいだろう。
難しいのを承知の上で、病状を早く治すように医師らへと指示を出した。
医師というのは地位を守ることを第一としているのか、王が関わっていることに難色を示し、最初は誰も診ることを嫌がってきた。
宥めたり脅かしたりして、ようやく何人かで専属を組むことが出来た。
「開放的な庭のある部屋を準備して静養させましょう。それが回復への一番早い方法です」
「何らかの安らぐモノを与えるのも良いでしょう。小動物などは心を癒すのに最適と言われています」
子供でも考え付くそれが本当に効くのか、と呆れたが他にあるのは薬物だと言われてしまえば、まあいい、と頷くほかなかった。
急ぎたいのはやまやまだったが、心の病気である。時間は掛かって当然なのだろう。
医師の薦めを受け入れて小動物を飼育させることにした。
やがて、少しずつだが良い兆候が見られる、という報告が上がるようになった。
小動物に自分から手を伸ばし、話し掛けることも増えた、と医師がにこやかに告げた時は、正直胸を撫で下ろしていた。
このまま元に戻らなかったら、医師だけでなく自分までも王に殺される運命が待っているからだ。
「これでようやく試すことが出来るな」
筆頭侍従は、薬師を呼び寄せ、ある調合をするよう命じた。
更にそれから数ヵ月後、日常生活を送れるまで精神が安定しているとの報告書が手元に届いた。
王からは、早くアデルを戻せと矢の催促だったが、念を入れて更に1ヶ月療養させることに決めた。
毎日、特別な薬湯を与え、睡眠導入剤を使用して暗示を与えていたからだ。
恐怖に怯える幼い心に少しずつ刷り込ませるように。
「私は王の持ち物。逆らうことは許されていない」
「王だけが我が主」
「王には絶対服従します。何をされても喜ぶことが使命。私の存在意義です」
暗示にどれほどの効果があるかは不明だったが、気休めでも構わなかった。
筆頭侍従にとって少年の存在は、それほど大したものではなかったからだ。
何れ捨てられる愛妾に、時間も金も掛ける勿体無さの方が大きかった。
さすがに壊れたままでは王の前に出せないから長期間を療養に当てたが、高価な薬や高度な医療を施す気は初めからなかった。
▲
5歳で王族の形代となり、13歳で王に凌辱された少年は一族を惨殺された後、精神を病んで治療を受けることになった。
暗示が効いたのかは難しい判断だが、愛妾となって5年が経った今も王の嗜虐嗜好の犠牲者である事実は変わっていない。
その王が訪れると聞いて恐怖を感じたのだろうか。
流れる涙を指で拭い、ようやく隙間からアデルが這い出て来た。
一人の侍女がさっと進み出て、水で濡らした布をその目に優しく当てて拭っていく。
「・・・ありがとう」
小さく礼を言うアデルに、皆がホっと微笑み合う。
「さあ、急いで準備に入りましょう」
「ええ、もう時間がないわ。・・・そっちのタオルを取って」
「衣装と装飾品を・・・。そうね、ここに全部揃えて持って来て頂戴な」
頼まれた侍女が数歩も行かないうちに、新たな頼みごとが増えていく。
「・・・あら、櫛が見当たらないわ。捜して持って来てくれる? 簪も幾つかお願いね」
「あっ、冷たい飲み物もお願い」
忙しく手と口を動かしながらも、アデルにすり抜けられる場合を想定して、7人の侍女は包囲網を敷いていた。
「2人で向こうの、・・・ああ、そこのソファでいいからここに運んで頂戴」
「鏡、・・・鏡はどこなの? 」
「ああもうっ、これ違うじゃないの。えっと、確か向こうに・・・」
口調は苛立ち混じりでも、小走りに隣室へと取りに行く侍女の顔は穏やかだった。
焦りながらも楽しそうな女性7人が一斉に動き出すと、途端に華やかな雰囲気が部屋を包み込でいく。
その慣れた空気に、自然とアデルも寛いでいった。
愛妾の埃に塗れた身体と髪を濡れた布で拭うと、侍女達は衣装をザっと再点検し、装飾品を横に並べ始めた。
1人が香を焚き、薬湯を準備し始める。
これは、王から命を受けた薬師が特別に調合したアデル専用の配合である。
「さぁ、お飲み下さいませ」
アデルは、侍女から渡されたそれを不味そうな顔でゆっくり飲んだ。
小さく笑った侍女の差し出す水を口に含むと、嚥下してから口を布で軽く拭っていく。
その手から布を受け取り、侍女が部屋を出て行った。
年長の侍女は恥ずかしそうに全裸になったアデルの腕を優しく取ると、大きな布を敷いた台の上にうつ伏せの状態を取らせた。
いつものように2人掛かりで、髪に振り掛けた香とは別の物を身体全体にじっくりと塗り込んでいく。
尻の狭間を女性の指に弄られ、アデルは羞恥に頬がカアっとなった。
そんないつまで経っても慣れる事のない愛妾を見て、皆は静かに微笑んだ。
今まで大勢の貢ぎ者を相手にし、子を強請る後宮の女達に飽きていた王が、アデルの物慣れない羞恥に喘ぐ可愛らしい仕草を好んでいたからだ。
嗜虐の性を隠すことなく成長した王の周りは、常に入れ代わりが激しい。
自然、王に阿る者達や気が弱く逆らわない小心者が目立つようになっていた。
その中でも大貴族や豪族達は、王を必要以上に持ち上げることに余念がない。
前王からの信頼も厚かった内務大臣と一族郎党が、王命により召集され、弁解する間もなく惨殺されたからである。
噂好きの民は勿論、王に仕える誰もがアデルに関心を持っていることを7人の侍女たちは知っていた。
「その生き残りの少年が愛妾となって、今も王の閨房を暖め続けているんだとさ。大変な可愛がりようだと言うから驚きだよな」
「誰にも見せないように囲っているらしいしな。後宮の女どもがイヤがらせをしたくとも、そりゃ出来ないよなぁ」
好き勝手な噂は瞬く間に国中に広がり、その姿を一目見ようと王宮の侍従に袖の下を渡す者が後を絶たなかった。
勿論、お気に入りの籠の鳥が王宮から出される筈もなく、アデルが愛妾になってから丸5年が過ぎようとしていた。
▲
王の愛妾が目を伏せ、身体を羞恥に震わせている頃、後宮でも同じ様な光景が繰り広げられていた。
50以上ある部屋の主人とその侍女達、大勢の召使い達が、久しぶりの宴に歓声と怒号を上げて騒いでいるのだ。
後宮の中で一番若い妃は、唯一の競合相手だと思っている女性の衣装を事前に調べさせていた。
「もっと締めて! ・・・駄目よ、まだ細くするのっ。構わないからもっと締めなさいっ。今度こそ、あの第3妃に負けるものですか」
この衣装では駄目かもしれない、とキョロキョロ視線を動かし、床にまで置かれている艶やかな衣装を見比べる妃に、侍女達は見えないように溜息を吐いた。
一番最初に後宮に入った妃は、王に見てもらう為より、自らの存在を皆に知らしめる目的で衣装を選んでいた。
「・・・そっちの、いえ、こっちかしら? ああ、それも見せて。・・・ちょっと、このクズっ、早くなさいっ!」
王妃となれるよう教育されてきた淑女は、長年放って置かれている現状に苛立ち、自分以外なら人でもモノでも文句を付けるようになっていた。
清楚さが漂う衣装よりも大胆な配色の衣装を選んだのは自分なのに、身体の前に当てた瞬間に衣装が気に食わないと怒りを露わにした。
「もうっ! あんたたち何してるのよ! これじゃ色が合わないじゃないのっ。この 馬鹿女! 手をお出しっ」
金切り声を上げながら侍女から差し出された鞭を手に取り、毎日のように標的にしている召使いの背を打った。
何度も何度も打ち込んで、ようやく気が済んだのだろう、鞭が床へと投げ捨てられていく。
赤ん坊の時から育てて来た妃のそんな姿を微笑みながら見ていた侍女は、
「こちらの衣装はいかがでしょうか。美しいその髪と透明な肌に良くお似合いでございますよ」
穏やかな言葉で妃の関心を衣装へと戻していった。
王を含む男性全てを怖がりつつも、自分が一番可愛い、いや自分だけが可愛いと信じている若い妃は、
「香水はまだ届かないの? ・・・全くっ、お父様は何してるのよ!」
どんな言動でも許してくれる甘い父親からの荷物の到着が遅いことに苛立っていた。
後宮に入る前から周囲の者すべてが可愛い自分を欲しがり、だからこそ何度も誘拐されそうになったのだ、と信じている妃は、着飾るモノは最高級品でなければ手に取る意味がないと思い込んでいた。
「ああ、早く世界で一番可愛い私の姿を王に見てもらわなくては。・・・今までは、あのバカ女達に邪魔されたけど、今日はこっちが攻撃に出てやるわ。まあ、その前に私の可愛らしさに悶絶して平伏するでしょうけどっ」
本気でそう宣言する自分の主から視線を外して侍女達は無心に衣装を掻き集めていた。ようやく決まった衣装をまた変更されないように早く隠さなければならないのだ。
「なんって可愛らしいのかしら、この私は。・・・変態たちが私を誘拐して手元に置きたがったのも無理ないわぁ」
金持ちの貴族の末娘だったからですよ、と呟く訳にもいかず、侍女の一人はこんな性格にした彼女の両親を馬鹿だと心の中で罵った。
両親の教育が、この愚かな若い妃の将来を変容させ、そして延長線にある国母になる夢を抱かせていた。
戦争上手な王族に生まれ、生糸関連の事業で富む国の元王女は、クスクスと笑って鏡を見つめている。
「ふふ、やっぱり私が一番美しいわね。この長い髪とくびれた腰、そして長い脚と細い足首。我ながら何度見てもウットリする美しさに眩暈しそうよ」
後宮に入ってすぐに、王の寵愛を少年に取られていると知ってしまった彼女は肩を落としたけれど、次代の王を虜にしてみせるわ、と心に誓っていた。
それだけの価値が自分にはあるのだと。
「良くお似合いですわ。さすが大国の王女と、皆から絶賛されるのが見えるようです。さ、こちらの紅を唇に」
一緒にこの国へと付いて来てくれた信頼する侍女の言葉に鷹揚と頷いた後、
「ねえ、今度はいい男がいるかしら。こんなところ真っ平だわ。私より劣る見栄っ張りの女ばかりなんだもの」
以前の意気込みは今ではすっかり消えてしまっていた。
肝心の世継ぎに、すでに若い愛妾や側室が大勢いることを知ったのだ。
「この国の男たちは愚か者ばかりね。あと少し待っていれば、財を持つ美女がやって来たというのに」
彼女は自分を最高の美女だと知っていたけれど、相手から望まれるのをただ待っているだけでは孤独な老婆になってしまうことも分かっていた。
だからこそ、この後宮から早く抜け出すことを現在の目標にし、標的を大臣の息子らに定めて、開かれる大きな舞踏会や催しに何度も出席しているのだ。
公の場では無表情で相手を品定めしてみるものの、この国には醜い男が多い、と毎回侍女に文句を言い続けるしかない日々が続いていた。
この国の世継ぎを産んだ女性を筆頭に後宮に暮らす全ての女性が、久しぶりの宴に舞い上がっても仕方がないのだろう。
何といっても、今回は王宮主催の舞踏会である。
普段は王以外の男性に会うことも出来ない後宮に閉じ込められているのだ。
王女、姫、大貴族の娘達の気持ちが最高潮に達しても誰も眉を顰めることはなかった。
ヴェール越しとはいえ、堂々と出席出来る数少ない宴のため、その興奮は恐ろしいほどである。
数ヶ月前から衣装や宝石を準備していても、気に入るまで何度も付け替えるのは当然といえた。
中には思い通りにならず、召使いに当たる主人も多々いたが、これも誰も咎めることはなかった。
そんな異常な興奮の裏に、もう一つ理由があることを分かっていたからだ。
今回の宴で、初めて愛妾が出席すると発表された時は本当に怒号が飛び交っていた。
長年燻っていた、後宮の女達の山よりも高いプライドが再燃したのも仕方なかった。
愛妾に負けるものかと実家の親達に金の無心や無理難題が雨の様に降り注いだのは、両親達にとって不運というものだったが。
大臣の一族とはいえ、すでに失脚した貴族の生き残り。
本来ならばアデルのように身分もない者が、それも男が王の傍に侍るなんて、と誰もが心の中では憤っていた。
王の気性が恐ろしくて、愛妾から寵を奪おうとするのは一部の妃だけだったが、男に、それも少年に王を奪われた屈辱は胸にクッキリと刻まれている。
しかし、苛烈な王が唯一寵愛する者を堂々と卑下することも出来なかった。
そんなことをしたら死が訪れるのは周知の事実。あの冷酷な視線で虫けらのように切り殺されて終わりだろう。
後宮の女達にも守りたい実家があり、例の一族の二の舞を踏んで全てを灰にするわけにはいかなかった。
▲
衣装を纏ったアデルを中央にして、7人の侍女が手落ちは無いかと眺めていた。
その怖いくらいの視線に頬がヒクつくけれど既に半分諦めており、もうどうにでもしてくれとアデルは沈黙を通した。
王が侍女達に宴の準備を言い渡したその日から、今日の為に特注されたドレスに宝石、髪飾りである。
彼女達はアデルにもカタログや見本を見せつつ、あれこれとおしゃべりしては顔を上気させ、嬉しそうに目を輝かせていたものだ。
ヴェールで見えないというのに髪型にも細かく拘り、何度も何度も髪飾りを変えてはその出来映えを確認された日のことを覚えている。
結局、腰までの長い髪は下ろしたまま丁寧に解され、艶が出るまで梳かれることになった。
清楚な装いにすべく、装飾品も上品なものを数品だけ厳選され、身を飾っていた。
アデルが嫌がったドレスは一見豪華で重そうだったが、その生地は超極細の高級糸で織られており、スリム軽量化により、華奢な体つきのアデルでも普通に装うことが出来るように作られていた。
異国から献上されたその生地は、王自ら保管庫から持ち出し、最高の職人を指名した後に、一針一針手縫いさせたものだという。
綺麗な刺繍が全面を飾ったドレスは、繊細で豪華な仕上がりとなって届けられ、アデルにピッタリだと侍女達の顔も喜びに綻んでいた。
顔を隠す薄い不透明なヴェールには高級レースが惜しげもなく使われ、これも職人の刺繍が華を添えていた。
王の手に吸い付くようなアデルの柔肌は薬師によって日々管理されており、剥き出しの腕や脚が、その艶やかさを見る者に魅せつけることだろう。
7人には、今から皆の感嘆の声が聞こえるようだった。
金髪と碧眼の逞しい筋肉質の王と、母親譲りの銀髪と紫眼の持ち主のアデル。
そんな2人が寄り添う姿は眼福さながら、招待者全員が、特に後宮の者達が目を見張ること間違いなかった。
王を守る護衛達の足音が廊下から聞こえて来た。
苛烈な王の、愛妾への固執。その溺愛ぶりは尋常でなく、18歳になった今も手放す気配は一向に見えない。
アデルに自分だけを見つめるよう強要し、周りを排除することに躊躇ない様はどこか幼い子供のようであったが、被害が大きすぎた。
ほんの少しでもアデルが他人や動物に興味を持った事に気付くと、容赦なく罰を与えて王宮から追放し、場合によっては切り殺す事さえあった。
それを知ったアデルは、二度と自分の所為で他人が傷つかないようにと、他人と交わることを避け、自然の動植物を視線で愛でることに留めるようになった。
それだけが、唯一、王宮での寂しさを慰める糧だと知っていたから、侍女達も王の居ない時を見計らって奥庭に連れ出していた。
「さ、アデル様。もうそこまで王がお見えですわ」
「ドレスはお脱ぎになって。・・・はい、このローブを着て下さいませ」
「髪のヴェールも今は外しておきましょう。大広間に行く前にお付けしますね」
せっかくの衣装を汚す訳にはいかないと、彼女達は大切な少年へと視線を合わせた。
この後、必ず王はアデルの身体に手を伸ばすに違いないからだ。
舞踏会に出るギリギリに着てもらうことで、王の傍らに初めて立つ愛妾が恥をかくことなく、その姿を人々に見てもらえる筈だ。
「・・・あぁ、そうね。王のお気に入りの杯を用意して頂戴な」
「椅子をもう一つここに持って来て・・・」
バタバタと動き回る侍女達の姿は、アデルにとって心温まる日常だった。
たとえ、それが恐ろしい人物を招く為の準備であっても。
テーブルに菊華水を用意させ、王専用のお茶の仕度が進められていく。
そうこうする内にノックが扉から聞こえて来た。
ガチャりと鉄の触れ合う音がして、ゆっくりと重い扉が開き始めた。
やがて堂々とした体躯を煌びやかな舞踏会用の礼服に包んだ王が入って来た。
すでに侍女達は、揃って床に跪き頭を下げている。
アデルもその場で深く一礼すると、王の足がソファへと進むのをじっと見つめた。
ドカっと王が座るのを確認していると、侍女達が目で合図しあう気配がする。
緊張に満ちた侍女達と同じようにアデルの胸の鼓動もいつしか速くなっていた。
別の者から水を乗せた盆を受け取り、侍女ネッサラが静々と王の前に進み出た。
跪き、捧げ持った盆を王が取り易い高さで止めて俯く。
チラッとそれを見た王は、気だるそうに杯を掴み、一気に喉へと注ぎ込んだ。
無造作に、だが優雅な所作で杯を戻し、ネッサラを下がらせる。
その様子を見ながら、アデルは王に歩み寄った。
全裸に薄紫のローブで身を包んだ愛妾が足元の床へ座ろうとするのを、王は無言で腕を伸ばして腰を抱くと、自分の膝の上に座らせていく。
頬を染めて王の胸に潜り込むように俯いたアデルの背を、王が淫靡に撫で始めた。
ピクっと身体を震わせ、イヤイヤと顔を左右に振り、その手から逃れようともがいた。
そんなアデルを咎めることなく、背から尻へと大きな掌が下りてく。
「っはあんっ! んんっ・・・」
小さく喘ぐ声が部屋の中に響き始める。
舞踏会へ向かう前に、いつものように王は愛妾の身体で愉しまれるのだと察した侍女達は、音を立てずに壁へと下がっていった。
太い指2本が無造作に尻の穴の奥深くに入り込み、中をぐちゅぐちゅと音を立てて掻き回していく。
「アレを用意しろ」
喘ぐアデルを見つめたまま、王は無表情で控えている侍女頭のアスキーンにそう命じた。
「2匹、大きいのだ」
その指示にアスキーンは頷くと、背後の侍女達を振り返って視線で指示を与えていく。
彼女達が小走りに去るのを確認すると、アスキーンは指の動きを邪魔しないように注意しつつ、王の上着を脱がさせてもらった。
それを戻ってきたネッサラに渡し、隣室に持っていくよう指示を出した。
入れ替わるように、ジブラサとビラチェが盆に大きなビン1つずつを乗せて戻って来る。
アスキーンはビンの1つを受け取ると、床に膝を付き、ゆっくりと王へと差し出した。
喘ぐアデルの尻に、王のもう片方の指2本が入り込み、大胆に横に開いていく。
ビンの中で蠢くモノの気配がアデルをより一層竦ませているが、王はそれを気にすることなく指を動かし続けた。
大胆にそこが開かれると、王は視線だけでアスキーンにビンの蓋を取るように指示を出した。
中に入っているモノが上手く届くようにと、愛妾の身体を軽く動かし続けながら。
開かれた入口の方へとビンの中の蠢くモノが方向転換し、やがてアデルの尻へと入り込み始めた。
「ひぃぎぃいぃいいいいいい~~っ!」
アデルは身体を大きく震わせ、涙を零して逃れようと必死になった。
その痛痒い、無数の細い足達が奏でるムズムズ感と刺激。
何より蟲が敏感な場所へ入ってしまった恐怖に。
指で開かれてしまった尻の奥に蟲がズブズブと入っていく。
抜け出そうとする蟲の後ろを長い指で中へ押し込むと、王はその感触に咽び泣くアデルの姿に目を細め、じっくり観察して愉しむことにした。
「ひぃぐうううううううううぅ~。ひぃぎぃっ、ぎっ、ぎぃひいいい~~っ」
何度もされた事とはいえ、余りの気持ち悪さにアデルの額にはビッシリと冷や汗が浮かんでいた。
その蟲は太さ4cm、全長5cm。
目も歯も無く、長い舌が特徴で短毛ミミズに無数の足が付いている。
その毛穴から非常に珍しいモノが排出されるので有名だった。
この国の薬師が創った高級蟲で、世界中に需要が有る。
これを創らせたのは数代前の王であり、後宮の女達を自分好みに調教するのに使われたと言われている。
内壁を傷つけずに女達の矜持を剥ぎ取り、時には心を壊すのに最適な道具。
精液や淫液など全ての排泄物が好物であり、その臭いを嗅ぎ取って無数の足で内壁を擦って進むのだが、その際に分泌される液体が排泄物と反応して媚薬効果を齎すのだ。
時間の経過と共に嫌悪が快感へと変わっていく恐ろしさ。
女性ならずとも恐れるモノ。
そんな蟲がアデル尻の奥へと収まっていた。
蓋を閉めて次のビンを受け取るアスキーンの手元を、空ろな目でアデルが見つめていた。
諦めと仄かな悦びがアデルの思考を更に惑乱させ、知らず舌で唇を舐めて次が与えられるのを待っている。
依然として王の指に支えられて大きく開いたままの尻穴に、新たなビンが当てられた。
やがて、ビンの入り口がスポっと隙間無く挟まって動かなくなった。
敏感なアデルの内壁がビンのふちを包み込んだのだ。
ビンの中で蠢いていた大きな蟲が焦れったく進んでいく。
暫らくして、全長5cmの蟲を前方に咥えたまま、太さ5cm、全長6cmの蟲も完全に中へとその姿を消してしまった。
アデルの拡張された尻穴の奥深くへと。
「あぎぃっ! ひぃっ、ひっ、いぃぎいいぃいいいいいいいいい~~っ。ひっ、ひぃいいいいいいい~~~~っ!」
尻たぶを王の掌に撫でられたまま、アデルが絶叫を上げる。
中を蟲の舌で微妙に擦られ、2匹が蠢く気持ち悪さに犯され続けているのだろう。
逃げ惑う身体を王はしっかりと腕に抱き止めると、気紛れに愛妾に口付けを繰り返した。
何度も大きく跳ね、ひいいっと腕の中で喘ぎ続ける愛妾を満足そうに見つめている。
「行くぞ」
アスキーンに鋭い視線を向けると、王はアデルを姫抱きに抱え直して立ち上がった。
ヒクヒクと身体を震わせ、唇を噛み締めるアデルの額に軽く口付け、王は愛妾を連れて部屋を後にする。
背後に必要な物を準備した侍女7人が続いていた。
蠢き続けるモノに嬲られたまま、アデルは王に連れられ大広間の一つ手前の部屋まで運ばれていった。
「あぎぃっ。うぐぅがあっ、・・・がっ、はがぁあああ~~~~! ひぎぃ、ひっ、ひゅ、ひゅぎぃひぃいいいい~~~~っ」
王が椅子に座ると同時にアデルも膝の上に下ろされてしまう。
その衝撃に尻の穴の奥で蟲がグルグルと動き回り、涙混じりの叫び声を上げた。
どんなに動き回ろうと、王の膨張したモノを全て収めることの出来るそこが裂ける事はなかった。
充分な歳月を掛けて調教されており、優しく妖しく王を締め付けるよう念入りに拡張されているのだ。
自分の欲を満たすことにした王は、愛妾の眦に浮かんだ涙を舌で舐め取るとソファの上でうつ伏せにさせた。
太い指で尻を大きく開けると蟲を摘んで引き摺り出していく。
「ひっ、ひぎぃ! あぎぃいいいいいい~~~~! ひゃがっ、がっ・・・はっ、・・・ぁ・・・、あっ、あひぃいいいい~~っ」
抜かれる度に粘膜が擦られて、気持ち悪さにアデルは泣き叫んで哀願を繰り返した。
「いひいぃ~~~っ、・・・やっ、いやぁっ。もうっ、もういやぁああ~~~~っ。・・・ぇっ・・・、お、おね・・・いしますぅううぅ。ゆ、許し・・・」
何度も何度も、もう許してと涙声で訴える可愛い愛妾の頼みをワザと逆に受け取って、王は許しを与えてやった。
「ほう、抜かれたくないか。お前がそんなに頼むなら、このまま入れて出るとしよう」
「・・・っ・・・! ひ、ひいいいい~~~! ぎぃ、ぎぃひいぃいい~~~~~っ」
急いで首をプルプルと振って拒絶した。けれど、恐怖に固まったのか言葉が中々出て来ない。
アデルの慄きに身体が反応し、次の蟲を掴んで入ったままの王の指を締め付けようとする。
絶妙の締まりに、王は口の端を上げて嗤った。
自分の欲を後回しにしても構わない程に、この愛妾の素直な身体と心を気に入っていた。
暫らくその締め付けを愉しんでから、ようやく蟲を引き出してやることにした。
涎を口端から流し、赤い頬に涙が零れ出るアデルの表情は、どこか恍惚としていて愛らしかった。
ブルブル震える愛妾の唇を奪うと、舌を差し込んで口腔を舌で嬲ってやる。
たっぷりと自分の唾を呑み込ませて、嚥下していく咽喉を見つめた。
ハア、ハアっと荒い息を吐くアデルを抱き込んでソファに座ると、膝に抱え上げて落ち着かせてやった。
部屋に控えていたアスキーンに視線をやり、準備の指示を出した。
心得た彼女は背後の部下達にヴェールの支度を急がせ、自分は抱えたドレスの皺を伸ばしながらアデルへと近寄って行った。
事実上のアデルのお披露目が、間も無く開始されようとしていた。
▲
煌びやかに着飾った大勢の客人達。
後宮の女性達の指すような視線が痛い。
興奮に勃ち上がった小ぶりのペニスを王に弄くられ、尿道を太い指で塞がれて頬がカアっとなる。
直接には見えないといえど、ドレスの不自然な盛り上がり方で全員にバレていると分かっていた。
先程、大広間に盛大な拍手で迎え入れられた王は、アデルを膝に乗せて玉座に腰を据えてしまったのだ。
逃げたくても逃げることが出来ない。
他人に自分のあられもない姿や、興奮に火照る顔を見られる時間が一刻も早く終わることを願うしかなかった。
王の信じられない態度を見た客人は驚き、まさかそうするとは、と国の重鎮達も仰天した様子で誰一人声を出さない。
静まる広間の中で王の毅然とした態度と、愛妾の身動く音の対比が鮮やかにその場を支配していた。
誰もそれを常識外れだと、声高に指摘することは出来なかった。
後宮の妃達、貴族の女性達も怒りで顔を真っ赤にさせたものの声を上げることは控えるしかない。
面白くなさそうに見下ろす王の機嫌を損ねるなど、率先してやる者など一人も居ないのだ。
(いやぁああ~~~っ、もう許してっ。だ、誰かっ、お願いだから助けてっ)
この5年間、言葉に出さずとも視線で訴えて来た。けれど、誰一人としてそれに応える者などいない。
そう知っていてもアデルの濡れた目は救いを求めて彷徨っていた。
他人の前で男に身体を弄られて喘ぎたくなかった。
こんな恐ろしい男の与える行為に慣れてしまった身体が憎らしい。全身が過剰に反応して沸々と何かが沸き上がっているのが分かった。
助けて欲しいのに、真逆の懇願が今にも口から溢れ出そうで怖かった。
(ここは嫌いっ。ここで犯されるなんて嫌ぁ~~っ)
アデルはピリピリする空気を敏感に感じ取り、ひと時も休むことの出来ない緊張感に襲われ続けていた。
やがて、耐えられないと身体が悲鳴を上げるようにガタガタと震え出し始める。
激しく身震いする愛妾に気付いた王は、優しくアデルを抱えると腰を上げた。
「後は好きにしろ」
そう、筆頭侍従に言い捨て、ゆったりと寝所へ戻って行った。
恐ろしいほどの沈黙を背にしても、その足取りに変化はなかった。
強引に伸し掛かられ、何度も何度も尻の穴を指と舌で解されていた。
時間を掛けて拡張されたそこを太くて熱いモノで貫かれ、悲鳴を上げたのは数刻前のこと。
それからは嬲るように、ゆっくりじっくりと浅く突き込まれては引き抜かれることを繰り返されている。
「あ、はあぁぁぁ~~っ。・・・はぁう~~~~、んんっ。あっ、あっ、あはぁああああ~~~~~っ。ん、んんっ! あ、あんっ、あぁんっ」
太い男根がグルっと尻の中で回され、片足が王の肩から外れてピンと突っ張った。
その足首から精液が一筋流れ落ち、その感触にビクっと身体が震えて王のモノを締め付けてしまう。
「・・・くっ」
王が呻き、アデルに突き入れていたモノを更に奥へと強引に押し込んでいく。
「あぎぃいいいいいいいいい~~~っ。ひっ、ひぃいいいいい~~~~~! ・・・ひっ・・・、あひぃっ。ひぎゅうぅ、うぐうぅう~~~~~~」
ドプっドプっと大量に精液が注ぎ込まれ、失いかけていた意識が引き戻された。
「ふうっ」
満足気な王の声した。
憎くて、恐ろしい、すぐにでも逃げたい相手なのに、何故こんなにも胸が痛いのだろうか。
アデルには何が正しくて、何が間違っているのか、もう分からなかった。
▲
「ひぎぃいいいいいい~~~~っ。・・・あ、あっ、ああぁあああ~~~~~~~んっ!」
中に注がれて感じたのだろう。ブルっと震える愛妾の何もかもが可愛いくて堪らない。
気持ち善すぎて大量に出したせいで少し萎れたモノを、濡れている尻穴から抜き出した。
代わりに指で乳首を捻ってやる。
「ひゃぃいいっ!」
小さく身を震わせ続けるアデルのペニスの根元には、太い環が嵌められていた。
特注に相応しく、貴重価値の高い宝石が無数に飾られている。
そのペニスの先端より下の部分は私の手で穴を開け、素早く極小の真珠ピンを両端に嵌めるように貫いてあった。
泣き叫ぶアデルが可愛くて、そのピンの中央に強度のある乳白色の糸を潜らせて輪を作ってやった。
触ったり掴んで揉んだのが良かったのか、男にしては大きくなった長い両乳首にも同じ糸が結わえてある。
愛妾がイキたくなると糸を同時に引いて、それを阻止して愉しむ為の仕掛けだった。
全てを奪ったあの日から、アデルは王である私のオンナであり、奪い尽くす獲物でしかなかった。
あくまで私を喜ばせる存在であり、自分の欲は後回しにしなければならない。
若くて経験の少ないアデルは、我慢出来ずに何度も吐精してしまい、それを躾けるという口実で環を嵌めて調教を楽しんできた。
勿論、これからもそうするつもりだ。
こんなに楽しい、聞いていて下半身が痺れる悲鳴の持ち主をどうして手放せようか。
「あひぃっ。い、いひぃいいい~~~っ! ・・・んっ、んん~~っ、お願いっ、・・・イ、イキたいっ、あぁ~~っ!」
涙をボトボト零して哀願する愛妾に私は満足し、許しを与えることにした。
「お、お願いで・・・。ひっ、ひぃいい~~~んっ、んんっ! ・・・も、もうっ、ゆるし、てぇえええ~~~~!」
但し、環を嵌めたまま精液を零さず、オンナのように気をヤルという条件で。そう耳元で囁いてやる。
「ひっ、・・・む、むりっ、ですっ。い、やあぁああああ~~~~~っ。ゆ、許してぇえええ~~~~っ」
必死になって私に視線を合わせてくる姿に自分の唇が歪むのを感じた。
苛めれば苛めるほどに、この愛妾は清楚さを保ちつつも淫らになっていく。
その様が、無表情で冷酷だと呼ばれる私の胸を熱くさせるのだ。
「イクといい」
すでに激しい抜き差しの余韻も消え、今は内壁に注がれた淫液の熱さに羞恥を覚えているだろう愛妾を視姦してやった。
これまでの調教の成果だろうか。許しを与える王の低音に感じたアデルは、身体が望むまま射精していた。
「あぎぃいいいいいい~~~~~っ。ひぎいぃっ、ひっ、ひぐぅっ。うおぉ、おぐぅおぉおおうぅううう~~~っ」
可愛らしいイキ様だと薄く笑った王の指が、まだ途中だというのにペニスの紐へと伸びてきて、それを引っ張った。
「ひぃっ! ひぎぃいいいいいいい~~~っ! ・・・んっ、んんっ! い、いやっ、やだっまたっ・・・。いっ、いっちゃうっ、いっちゃうのぉおおおおお~~~~」
王は最後の一雫をも擦り付けるが如く、醜くて太いモノをアデルの乳首に押し当てて汚れを拭っていた。
悔しくて悲しいはずなのに、それにさえ感じている自分を自覚してアデルの頬が真っ赤に染まった。
「うぅっ。ひっ・・・ひぃい~~~~っ。・・・やっ、そこは・・・い、やぁああ~~~~っ、いやだぁっ」
ピクピク震えている尿道に王の指が伸びるのを見ていたアデルは、必死になって首を振った。けれども、そんな自身を裏切るかのように脚は大胆に開いたままで閉じる気配はなかった。
「は、はぁううぅ~っ! んっ、んんっ、・・・いいっ! あぁああ~~~~っ、いいっ、いいのぉおおお~~~~~~っ」
グブっと差し込まれた指を奥へと誘おうとするアデルの腰の動きが、王の視界を楽しませていた。
ある国に、一族全員を抹殺するほど独占欲の強い王がいた。
そんな王に囚われ寵愛される小さき花。
望まぬ淫らさで王を惹きつけた可憐な花は、今日も王の寝室で咲き誇っていた。
スポンサードリンク