【 やがて築かれていくもの 】 初出-2010.07.11


視線の先で見たくない光景が繰り広げられていた。
設置された銅像の影に隠れて、ある人物を見つめていると知らず溜息を吐いてしまう。
(何で、そんなに嬉しそうなんだよっ)
楽しそうに女性たちと笑い合う彼を眺めていると、胸が苦しくて堪らなかった。
自分が悪いのだろうか。
彼が伸ばした手から逃れ、他の男のところへ走ってしまった自分が。
彼が唯一膝を折る男は、これまで幾度となく自分を救ってくれていた。
正しくは、男の側女であるラウラの差し出す温かな腕によって。
だから、今回もそうしただけなのに。
いつもだったら、仕方なさそうに小さく笑って許してくれるのに。
何故、今日に限って駄目だったのだろう。


立ち去る彼の表情が常になく冷たかった気がして、僕は穏やかで温かいラウラの腕の中でじっとしていることが出来なかった。
嫌な予感がして落ち着きなく歩き回っていると、ある人物がそっと僕の背中を押してくれた。そう、ラウラが仕えている主人のテゾン様だ。
この屋敷の主人であり、彼の父親、そしてこの地を治める領主である。
テゾン様は、この都を国王から預かった先祖の名に恥じないよう、常に息子を厳しく躾けてきたという。
だが、彼自身は享楽に耽る自分を大いに褒め称える変わり者だった。
正妻が跡継ぎとなる男児を産むと、趣の違う二人を愛人にして子供を作らせたのだ。
それなのに、数年もすると次の女性が欲しくなったと公言して側女五人を屋敷に引き取ってしまった。
どの女性たちにもそれなりの愛情を与えた上に、子供を産むことを許していた。

順調に育っていく子供たち。けれど、彼は十人の子供の中で跡継ぎの子供にしか興味を示さなかった。
正妻との間には、今も冷たい隙間風のような空気が流れているというのに。
全てを受け継ぐ子供の教育には、親馬鹿だと評判が立つほどの熱心さで、不仲の正妻すらも呆れていたらしい。
やがて、それぞれの子供が八歳を迎えると同時に、小さな土地と屋敷を与えて彼らを追い払ってしまった。
何の躊躇も、憂いもなく。
その後も、何人かの側女が屋敷に引き取られたが、これも実にあっさりとした別れが繰り返されたという。
そうして、最後の子供とその母親が諦めの表情で出て行ったのと同じ頃。
市街で見掛けた少女のラウラを強引に自分の側女として引き取ると、これまでとは別格の扱いで可愛がり始めたという。

この少女も子供を産んだら捨てられるだろう、と誰もが思ったのだが、予想に反して領主はラウラと子供を作らなかった。
穏やかな気性のラウラのことを本気で気に入ったらしく、このままの状態を維持したかったようだ。
子供が出来てしまうと、どんなに愛情深い女であっても、いやそれだからこそなのか、子供の方へ愛情の比重が傾いてしまう。
誰も悪くないのに、自分と会う時は自分だけを見て欲しい男にとっては、それだけで価値がなくなってしまうのだろう。
本来なら自分勝手な男だと誰も側女にならない筈だが、困ったことに男には地位と権力、財産があった。
これまでの側女は他人から与えられたものであった為に、自分で選んだラウラとは一線を画す扱いになるのも自然の流れだったのかも知れない。

共に過ごす時間が増える度に、テゾン様は彼女に内緒で屋敷を抜け出す回数も増えたと本人から聞かされていた。
お気に入りの娼婦たちに別れを告げる為に向かったのだそうだ。
一人、二人、と可愛がっていた娼婦が減っていき、娼館の主らは嘆きと誘いの手紙を出してきたという。
「確かに、ちと可哀想になってな」
カラカラと笑っているテゾン様は、息子を代わりに出向かせるから我慢しろ、と返事を出してしまったようだ。
「もう、かなり昔の話よ」
享楽主義のテゾン様と違って、ご子息は娼婦に堕とされる心配が微塵もないと分かっていたから出来たことよ、とラウラが笑って教えてくれた。
こいつめ、とテゾン様の膝に引き寄せられても、無理な体勢で腰掛けることを強要されても、常にラウラの顔は穏やかに微笑んでいた。

優しく髪を引っ張る領主をそのまま放置しながら、ラウラは僕が慰めて欲しい時に手を差し伸べてくれた。
その小さな手が頭の上を幾度となく撫で擦ってくれるその時間が大好きだった。
呆れたようなテゾン様の視線もどこか優しさを含んでいたから、あんなに頻繁に部屋を訪れることを許されていたのだろう。
二人に流れた時間の長さを物語るその雰囲気は、自分の中のモヤモヤする想いを僅かだけれど消し去ってくれる気がして。
彼の側にいることが息苦しいと感じたら一目散に彼らの元へと逃げていたのだ。
それだけのことだったのに。


六人の着飾った女性たちに囲まれて、男は穏やかな笑みを浮かべていた。
その手には、女物の綺麗な柄の反物が幾つも握られている。
それらを次々に広げては、女性たちの身体に当てて確認しているようだった。
きっと、その反物を購入し、彼女たち好みの服に仕立てるよう命じるのだろう。
店先に立っている店員が、忙しそうに次の反物を男に渡していた。
新しいのを受け取るのと同時に、女性に当てていた反物は選別されることなく男の後ろに積まれていく。
嬉しそうに歓声を上げる彼女たちが眩しかった。
自分の欲望に忠実で、遠慮する素振りを見せつつも欲しいモノは必ず手に入れる。
そう、この都一の美女が集まっていると噂の娼館で暮らす女性たちは自分に自信を持っているのだ。
勿論、彼女たちにも男性の好みはあるだろう。
けれども、目前に立っているのは、この地を治めている領主の跡継ぎ。
戯れにでも一夜を共にできれば虚栄心は満たされるし、こうして娼館から連れ出してくれる男などそうはいない。
豪華な食事、綺麗で高価な宝飾品を与えられ、今また反物で自分好みの服を仕立てると約束してくれそうなのだ。
高貴な血筋と頼りがいのある体躯。知性を兼ね備えた切れ長の目で優しく微笑まれて彼女たちの頬は緩みっぱなしだった。
少し離れた場所からでもそれが分かるのが辛い。

主人を諌めることなく、彼らに背を向けて立っている護衛の数人が、隠れて見ている僕に気付いたのか小さく微笑んだ。
苦笑しつつも、慰めるような柔らかな笑みを。
(どうぞ、こちらへ)
(大丈夫ですよ)
そんな言葉が聞こえた気がした。
けれど、僕の足は頑固に動こうとしない。
側に行きたいという気持ちと、怖くて行けないという気持ちの狭間に揺れて。
笑いさざめく彼女たちの前で彼に叱られたらどうしよう、と怖かった。
何故、来たんだ、と冷たい目で怒鳴られるのが恐ろしくて堪らない。
流れ出ようとする涙を必死に堪えると、泣くなと自身に言い聞かせる。
俯いたのが悪かったのか、身体の重心が傾き、無様に倒れようとするのが分った。
地面にぶつかると思った瞬間、大きな腕が僕の身体を支えてくれた。
嗅ぎなれた体臭に知らずホっと息を吐いた僕は、息を吸い始める前に勢いよく身体を真っ直ぐに戻されてしまった。
「貧血か? ・・・戻るぞ」
僕の返事を聞くことなく、男は護衛の方を振り向いて命じていた。
背後で、驚き固まって声を出すのを忘れていた彼女たちが、狂ったように一斉に彼へ悲鳴のような叫びを上げ始める。
「ヒスイ様っ、どちらへ?」
「いやっ、まだ帰らないで下さいませっ!」
「今宵の約束は? わたくし共とのお約束はお忘れですかっ」
追い縋る彼女たちを黙って見つめたまま、ヒスイが僕を抱き上げた。
その瞳が冷たいのか温かいのか、僕からは見えなかったけれど。
「そうだったな。・・・約束は守るとしようか」
ホっと笑顔を浮かべた彼女たちを見て、ヒスイの表情は穏やかなままなのだと知ってしまった。

元からズキズキと痛んでいた胸がより強い痛みを訴えてくる。
それでも、 抱き上げているヒスイの腕は逞しい。僕を逃がさないように軽く力を入れているのが分かってしまう。
きっと蹴り上げても、この腕からは逃れられないだろう。
どこか恐ろしい気配を漂わせたヒスイに怯えたまま、僕は彼女たちの暮らす娼館へと連れて行かれたのだった。



護衛たちを別室に残し、ヒスイに抱き上げられたまま階段を昇って行く。
別れ際、護衛たちが僕を慰めるように微笑んでくれたのは嬉しい。
でも、この後のことを考えると憂鬱でしかなかった。
ニコニコと笑う館主に先導されて広い客間へと入った。
ここは多分、テゾン様がお気に入りだったという部屋だろう。
無駄に豪華で、金と銀、そして朱色の派手な装飾が恥ずかしい。
ヒスイの部屋も、僕に与えられた部屋も、白と青が基調の部屋だから余計にだ。
現在はラウラの希望でテゾン様の部屋も同じような色合いになっているという。
以前はとても直視出来ない彩色の部屋だった、とラウラが笑っていたのを思い出してしまう。

苦手な場所だと緊張していると、そっと床に下ろされた。
隣に座ったヒスイから女性特有の甘い香水の匂いが流れてきた。
やけに甘ったるい匂いに胸が苦しくなり、バレないようそっと身体を動かそうとした。
すると突然、太い腕が僕の目前を横切り、身体ごと捕まえてヒスイの胡坐の間に下ろしてしまった。
「ご苦労、トラン。 この子はすぐに私の元から逃げようとするから助かるよ」
「いえ」
前が見えないほどの大男に立ち塞がれ、呆然としている間にヒスイの手が僕の服の合わせ目に入ってきた。
「・・・っ・・・、やっ、ぃやぁっ!」
ほどなく乳首を探り当てられ思い切り抓られた僕は幾度も悲鳴を上げてしまう。
やめて欲しくて必死に懇願するのに、その言葉を奪うように口付けられた。
仰け反るようにヒスイの方へ顔を向かせられると満足に息も出来ない。
「・・・んっ、んんぅっ。あ、あぁふぅっ・・・、んっ、んん~~っ。あぁ、あぁふうぐぅ~~っ。ん、ん~~~っ!」
傍若無人に身体中を指と掌で弄られ、時々強く抓られて痛みを訴える声が上がってしまった。
とうとう涙を溢し始めた僕を、ヒスイが冷たい目で見下ろしていた。
その表情が恐ろしくて身体はガタガタと震えているというのに。
僕に口付けて虐めてくるヒスイに、何処かホっとしているのを笑うしかなかった。
まだ大丈夫だと、まだ飽きられていないとそう思って。
他人に見られていると知っていても、それでもヒスイとこうしていたい。
あの女性たちから少しでもヒスイの関心をそらしたかった。

口を塞がれたまま、下へと伸びた指が僕の恥ずかしく震えるモノを握り締めてきた。
「・・・っ・・・! うぅうっ、んんっ、やっ、やっだぁ~~~。 ひっ、ひいっ、ぃやぁ~っ」
何処から取り出したのか、プルプル震えるペニスが紐でキツく結わえられてしまった。
首を振って嫌がっても無視され、小さく拒否する仕草さえ彼の強い視線で簡単に縫い止められてしまう。
大人しくなった僕の唇をベロっと舐めると、ヒスイは自分が乱した服を手際よく元に戻し始めた。
「館主、酒の用意だ。ツマミは彼女たちの踊りでよい。上手く踊れたら先ほどの店の反物全てを買い上げて褒美としよう」
息も絶え絶えの僕を置き去りにして、もう別のことへ興味を移してしまったヒスイが怖くて堪らなかった。
それなのにそんな彼から離れるのが嫌で、僕を乗せたまま胡坐の体勢を整える様を甘受することしか出来ないのだった。

まるで置物のように静かに控えていた館主はヒスイの言葉に薄っすら笑うと、両手を摺り合わせるように数回叩いて酒の支度を命じていく。
あたふたと動き出し、踊る前の配置に付く六人の女性たちが僕の視界に入って来た。
今の今まで彼らの存在を忘れて卑猥な行為を晒していた事実が段々と脳に染み込んでいく。
耐えようもない羞恥と怖じ気を感じて思わず立ってしまいそうになった。
けれど、この館の用心棒なのだろうトランという大男が、僕とヒスイから少し離れた場所へと片膝を付いて座る気配を感じて動くことが出来ない。

華やかな踊りが、伴奏もなく始まった。
籠り出したお酒の臭いと部屋の色彩だけが、ここを娼館だと再認識させてくれる。
普通の娼館と違ってこの館はテゾン様お気に入りの高級娼館だ。
増築した時はお祝い金として装飾品や高価な絹糸、反物が大盤振る舞いされた、とヒスイから聞いたことがあった。
ここへ集められた娼婦も厳選して各地から呼び寄せたそうだ。
自国のみならず他国の要人に侍ることも多々あり、数カ国語の勉強と芸事も毎日のように仕込まれているという。
中でも、踊りの素晴らしさは格別で他国でも評判になっているらしい。
こんな状況でも噂の踊りが見られることに、ほんの少しだけ興奮してしまった。
しゃなりと揺れる腰の動きと、僕には一生出来ない流し目にドキリと胸が疼いた。
彼女たちの視線は全てヒスイに向けられていたからだ。

誰も演奏していない筈なのに、踊り手たちの奏でる何とも言えない妖しい空気が部屋中に立ち込めていた。
耳に入ってくるのは、手や足が揺れる動きで奏でられる床の微かな軋み。
優美な踊りの間、ヒスイの悪戯な手は一度も僕へ伸びることはなく、別の意味で僕の胸は苦しさに焼かれて痛んでいた。
時折、激しく髪と腰を揺らしては互いの身体を擦り合わせて踊る彼女たちの鋭く強い眼差しが眩しすぎた。
あの店で見せていた媚びの表情など何処にもなかった。
ただひたすらに互いのリズムに合わせると同時に、勝気さと妖艶さを前面に出して自分を魅せることに専念している。
やがて、踊りから一人、また一人と屑折れては意識を失い床に伏していった。
萎れる花のように、生気溢れる女性が綺麗な服を身に纏ったまま倒れていくのだ。
最後の一人が力尽きたように崩れ落ちると、力強い拍手が広い部屋の中を駆け巡った。

呆然としている僕には、ヒスイの鳴らす拍手に合わせて館主が深々と頭を垂れるのさえ踊りの続きのように思えた。
見えないけれどトランも同じように首を落している気配を感じていた。
「見事であった。館主よ、約束通り彼女らに褒美を取らせよう」
杯に手酌でお酒を注ぐとヒスイ自ら館主へと差し出している。
その態度はすでにこの地の領主のようで、僕は彼が見知らぬ男に見えて怖くなった。
そっと近付いて杯を受け取り、お酒を飲み干した館主が愉快そうに笑い出した。
「次期さまも、是非、我が娼館をご贔屓下さいませ」
いつの間にか僕の胸元の合わせに手を差し込んで、また乳首を弄り始めていたヒスイはその言葉に軽く頷くと、もう片方の手の甲を館主に向けヒラヒラと動かしてみせた。
苦笑いのような表情で静かに席を立った館主がトランを連れて部屋を出て行ってしまった。

二人きりなら良かった。この後、ヒスイに身体を弄られても二人きりなら我慢出来る。
でも、まだ彼女たちが置き去りにされているのだ。もし目が覚めて喘いでいる姿を見られたら、二度目とはいえ居たたまれない。
そんな僕の気持ちなど気にしないヒスイは、勃ち上がった乳首をキツく苛めて楽しんでいる。
どうしよう、どうしよう、と一人悶々としていたら、開け放たれたままの戸口から男性が六人入って来て、彼女たちを一人ずつ抱えて連れて行ってくれた。
これで一つの不安は消え去ったけれど、もう一つ、ここへ来る前から怒っているヒスイへの正しい対応だけが残っていた。



いますぐ叫びたい、そんな気持ちと声を抑えてヒスイの機嫌が元に戻るのを待つしかなかった。
皮肉めいた日常のからかう声が聞きたかった。その為なら疼くような熱も、激痛とそれに相反する快感も我慢してみせる。そう思ったのに。
やっぱりいつものように強烈な快感が背筋を通り抜けた瞬間、恥ずかしいほどの嬌声を上げてしまった。
「ひゃぁあああああ~~! ひ、ひぃい~~いぃ、・・・っ・・・、いひいっ、ひぃっ、ひぎい~~~っ!」
紐が結わえられている所為で、熱を孕んだ身体から精を吐き出せない。
それなのに、この酷い男は僕のそこを大きな手で緩急を付けながら握ってくる。
このままずっと溜めた状態でいるなんて辛すぎる。
身体を好き勝手に弄られているのに、吐き出すな、なんて無理だと叫びたい。
それなのに。乾いた頬の上を幾度も流れ落ちる涙でさえ、熱を孕んで温かった。
優しく、残酷に撫でてくるヒスイの指と同じように。

胡坐の間に挟まり、男に乳首とペニスを弄られながら、僕は狂い始めている身体を必死に宥め続けていた。
いつかヒスイの機嫌が戻って、この紐を解いてくれると信じて。
「クラン、少しは反省したか?」
温もりの欠片もない声が僕の鼓膜に響いた。
(ここで頷かなければ、きっと朝まで苛められてしまう)
必死に首を縦に振った後、背後に視線を巡らせてヒスイのその冷たい眼差しに照準を合わせた。
そうして、何度も何度も涙を溢しながら頷き続けた。
やがて、嘆息したヒスイが僕の唇を奪うと音を立てるように吸ってきた。
ようやく許された、そう感じた僕は彼の唇に吸い付くと舌と舌を絡ませていった。
「・・・ぁひゃ・・・、うぅふぅ、んんっ。 ふぁんっ、・・・っぁ・・・。あふぅんんっ、んっ、ちゅ・・・っ・・・」
何度も唾を吸い合っては、ヒスイの怒気が去るのをビクビクと確認していた。

離れない唇に息が苦しい。でもそれから逃げようとは思わなかった。
彼のことを好きだと自覚した時から、どんなことを命じられても従うことを自らに誓ったのだ。
涎が絡み合い、糸となって繋がった後で切れて落ちていく。そんな淫らな様が視界に入ってこの先を覚悟していたのに。
「アイツは・・・親父殿がお前に贈った服は何着だ? 指輪と髪飾りは?」
「・・・・・・?」
不思議な問いに頭の中が一瞬真っ白になった。
(今のなに? そんなことを聞いてどうするの)
呆ける僕の唇を強く吸いながら、縛られて苦しいペニスをゆっくりと撫で回された。
暫らく我慢したけれど、これ以上触られたら辛くて堪らない、と慌てて贈り物の枚数を数えていった。
「っはぁ、あぁあ~~~っ。ん、まって、・・・30、4、んっ! ・・・はぁ、んっ、んんっ! さわらっ・・・だめぇっ、・・・4、45着、ぐ、ぐらいぃいい~~。」
長い指がペニスの裏をねっとりと触っていく感触と、記憶に自信がなくて最後は多めに答えてしまった。
「んっ、・・・ま、まってぇ、はぁあああ~~~~っ。ゆ、ゆび、わは、多分っ、じゅ、12個ぉおお~~っ。・・・ぁっ・・・あぁんっ!」
最後の一つを数える前に、大きな掌が強くペニスを掴んできて悲鳴を上げた。
まるで、何かに苛立つように強く握られて痛くて堪らない。
許して、と哀願するように見上げると、自分の目尻から涙がボトボトと零れていくのを感じた。
「ちっ、あのムッツリ親父。・・・それで、髪飾りは何本だ?」
早くしろ、と睨むように見下ろされて、慌ててラウラに貰った飾り箱の中を思い出そうとする。
それなのに意地悪するようにペニス全体を指先だけで引っ掻くように弄られて考えることが出来ない。
「た、確か、・・・んっ、あぁあああ~~~~っ!ひいっ、い・・・ぃっ・・・、いやぁ~~~~っ」
「さっさと言いなさい」
視界から消えたヒスイが、脅すようにペニスに巻かれた紐の下を潜って舌を差し込んきた。
膨張したペニスを舌先だけで舐め回されて嬌声を上げてしまう。
「いやあぁああああああああああああ~~~~~~~。ぃやっ、やだっ、やだぁ、やあだぁ~~~っ。い、言うっ、言うからっ、・・・お願いぃ~~っ」
懇願に舌の動きを止めてくれたけれど、ヒスイの舌は紐の下に入ったままだった。
これ以上苛められたくなくて、急いでもう一度思い出しながら口を開いた。
「か、髪飾りは、・・・え、と、じゅ、18本だと、・・・思う、よ」
言えたっ、これでもう虐められない、と大きく息を吐いて身体の熱を少しでも冷まそうとした。
よく分らない質問だったけれど、これでヒスイの機嫌が元に戻ってくれるならいい。
そう思ったのに。
もう一本の紐を、またしても何処からか取り出した男は、暗い目付きで僕のペニスへとそれを巻き付けてしまった。
驚愕し、口を閉じることも叫ぶことも出来ない僕を笑うと、襲い掛かるように上から体重を乗せてきた。
本格的に行為を始めようとするヒスイに、僕は音のない悲鳴を上げた。

疲弊した身体を少しでも休ませる為だろう。
深い眠りに入ってしまったクランはピクリとも動かなかった。
そんな彼の頭を自分の胸板に当て、抱き上げて娼館を抜け出したのは翌日の昼前。
呆れることもなく黙って待機していた護衛を見やると、半分の人相が変わっていた。
どうやら私の出立がこの時間になることを見越して人員を入れ替えたらしい。
国王からこの地を治める次期領主の私に与えられた、高貴なる子供、クラン。
彼は、私の子供を産むことが出来る両方の性を持つ者だった。
その性により、母親から愛情よりも憎悪を貰って育ったと聞かされた私は、これからどうやってクランと良い関係を築けばよいのかを悩んでいた。
私自身も母から父への憎悪をぶつけられながら生きてきたからだ。

身分もプライドも高かった母は、父が他の女に手を出すことが許せなかった。
本当は愛していたのに、顔を合わせると厭味を告げずにはいられなかったようだ。
屋敷に堂々と何人もの愛人を住まわせ、その女たちに子供を産ませた父。
そんな父が、自分の産んだ息子だけを可愛がる。そのことだけが彼女の誇りを守り、歪んだ優越感を抱かせていた。
私を胸に抱きながら「可愛いわが子」と囁いたかと思うと、「お前はあの最低の男の血を受け継いでいる」と殴られ、罵倒されて育った少年期。
あれで私の性格は歪んだのだろう。
顔は笑っているのに、心には何一つ響いてこないのだから。
父が、母が、そしてこの都が私に与えるモノは全て汚らわしかった。護衛たちでさえ信用したことはない。

自分を取り巻く環境には打算が常に渦巻いていた。何を欲しがっても、何かをやりたがっても。
必ず誰かが得をする為に動き、損をしたと嘯く者が出てくるからだ。
だからこそ本当に嬉しかった。国王から賜った子供、クランという存在が。
国王にとっては厄介払いであっても、私には愉快で堪らなかった。
父と母も、そしてこの都としても拒絶出来ない存在からの贈り物なのだから。
誰も大っぴらには手を出すことを許されない子供。
両性の所為で本当に子供が産めるのか誰にも分からない不確かな、けれど見捨てることは許されない高貴な血の持ち主。
私にとってはクランの血が本物でも偽物でも構わない。大事なのは大勢の人間の思惑が外れたことなのだ。
少なくとも子供を産めない年になるまで他の誰も娶らない口実は出来た。
あまり煩く騒ぐならばクランを連れて流浪の民にでもなればいい。
本当に子供が出来てしまったら、それはその時の私の感情次第になるだろう。

似たような環境で育ち、同時に全く違う性を持つクラン。
おどおどしてはいるが成育には問題ないし、知性も教養も備えているのは少し話せばわかった。
押しつけがましい部分は見当たらず、それどころか大人し過ぎるほど静かで少々物足りなさもある。
それでも、見つめてくる視線に混じる戸惑いと好奇心、不安さのバランスが気に入っていた。
時々覗かせる本人さえ気付いていないであろうオンナの匂い立つ表情に、他の女では感じなかった部分が疼いたのもクランを認めた理由の一つだ。
だからこそ大事に関係を築いていこう、そう思っていた。
それなのに・・・。
その子供は、クランは幼過ぎて私を怖がって近づこうとはしなかった。
慣れてもらおうと言葉を掛けようにも、すぐに優しいラウラの元へと逃げ込んでしまう。
半年前、15歳になった日に強引に身体を繋いだのが決定的だったようで、あれから私の顔を見れば逃げようとする。
よく考えなくとも自業自得なのだが、それに苛立ち、更に手酷く身体を弄った私も私だった。
それでも、まだ子供だからと女の部分には一度も手を出していないことをクランも認めてくれているらしい。
多少の愛情と交流のあった父親である国王の元に逃げ戻ることもなく、大人しくこの屋敷で花嫁修業をしているようだ。

最初はラウラにだけ懐いていたクラン。
気が付けば、いつの間にか父にも頭を撫でさせるほど打ち解けており、一度ならず本気で父を殺そうと思ったことがある。
怖い表情をしていたのだろう、私に怯えながらもラウラがそっと耳打ちしてくれた。
父がクランを手懐けられたのは、大量の贈物攻撃という作戦が成功した結果なのだと。
「クランは寂しい子供だから、優しく接するだけで喜ぶわ」
忙しい父王も、我が子を省みない母親も、クランに贈物をしたことがなかったらしい。
初めての贈物に、あの子は涙を流したという。
しくじった、そう思った。父に出し抜かれて悔しくもあった。
だが、これから挽回すればいい。そうも思った。
何も急ぐことはない。時間は、まだまだ充分あるのだから。

泣き疲れて眠るクランの頬を舌で舐め上げ、目蓋に小さな口付けを落した。
(取り敢えず、父の贈ったモノは全て倉庫に投げ込んでやろう)
私の与える服をクランが喜ぶのか自信がなかったが、昨日の様子では私が女に服を仕立てるのは悲しいらしい。
銅像の影で、泣きそうな気配を漂わせて震えるクランは可愛かった。
すぐにでも抱き上げ、その場で貫いてやりたかったが、生来の気質か、どうしても苛めたくなってしまうのだ。
私を怒らせたと怯えるクランが、必死になって口付けに応えてくるのも可愛い。
アレを紐で縛ったりと、ついつい予定外に苛め過ぎてしまったようだ。
(今日一日、ゆっくり休むといい)
もう一度、眠るクランの目蓋に口付けた。
護衛が呼んだ馬車がもうすぐここへ来るのだろう。警戒に散らばっていた者たちが集まり始めたようだ。
私は私の大事な者を守る場所となった屋敷を思い浮かべていた。
つい最近までは牢屋でしかなかった場所を。

この先、何が築かれるのか、それは私にも分からない。
それでもよかった。クランが来るまでの生きているだけで何処か苦しい毎日が続くよりもずっと。
自分の身の安全でさえ興味なかった私が、護衛たちを改めて調査し直して、彼らの性格や身体能力を熟知出来たのもクランを守るという目的が出来たからだ。
書物の有り難い言葉も、先人の知恵と助言も、何一つ共感を得なかったのに。
何かを守る為には自らが変わる必要がある、という言葉を身をもって実感していた。
それだけでもクランに出会えて感謝しているのだ。
いつか伝えられたらいい、そう思っている。
「天邪鬼で意地悪な部分はきっと消えないだろうが、な」
眠っているまだまだ幼い身体を抱き上げると、周囲に今では信頼している護衛たちが揃っていた。
「さて、帰ろうか」
私の言葉に、表情を変えない彼らの視線が一瞬だけ光るのを感じた。

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