『掌中の珠』   第壱話   初出-2009.10.16

高校生同士。 金持ちの御曹司 × 脅迫者の孫(両性具有)


季節は早くも夏に近づいていた。
運動場では部活に励んでいた生徒たちが楽しそうな声で後片付け始めている。
そんな当たり前の、平凡で幸せな日常。
全てを諦めるように目を閉じている自分とは大違いだと思った。
蜘蛛の糸に絡み取られ、呼び出されては犯される。
これが私の日常だった。

完全に閉じる前に見えた男の表情が、残像として目蓋の裏に残って消えていく。
苦み走ったソレに内心首を傾げていると、真上から黒い影が覆い被さってきた。
その動きに、ビクっと身を竦め怯えたけれど、何故か動きを止めてこちらを見ているようだった。
「・・・?」
どうしたんだろう。普段はどんなに懇願しても聞いてもらえず、インターバルなしで責められ続けるというのに。
欲望に忠実なこの男は、私がどんなに痛みを訴えても、自分のやりたいままに犯すのを止めてはくれなかった。

ぴちゃっ・・・。 
ゆっくりとした動きで、男が濡れた舌で私の右の目蓋を舐めてきた。
ビクビクっ!
一度達かされた私の身体は特に敏感になっており、僅かな刺激でも感じてしまう。
「ぃやぁっ」
思わず首を振って嫌がる私に冷たい声が掛かった。
「今日はココに縛って置いていくのも楽しいかも、な」
「ひぃっ!」
恐ろしい台詞に、思わず目を開けて男の顔を見つめていた。
強張る表情の私が楽しいのか、ククっと笑うと男は愉快そうに続けた。
「どうする? ・・・お前が決めていいぞ」
私から男へ懇願しろと命令しているのだ。

「あ、・・・あうっ」
左耳の穴をねっとり舌で舐められ、答えることさえ儘ならない。
「ひゃうっ! ・・・はあぁっ」
舌が首筋を舐めながら下がっていく。
(早く答えなきゃ、早くっ・・・)
思いとは裏腹に喘ぎが止められない。
「はあああんんっ! んっ、んんっ・・・」
いきなり胸の頂きを、ピンと尖っている場所を男の指の腹で押し潰された。
気持ちが良くて見っとも無くも口を開き舌を出して喘ぐ私を、男が冷静に見下ろしている。
「・・・咲姫」
僅かだが情欲に濡れた声で名を呼ばれた。
涙で潤んだ目を男に合わせ、小刻みに震える腕を伸ばして太い首に巻き付ける。

「咲姫」
男の声に何故だか涙が零れそうになり、急いで目を閉じた。

▲▲▲

中学校を卒業するまで残り数ヶ月を迎えた或る日、私の名前が変わる事態が起こった。
生まれた時から使っていた嵯季人(さきと)は咲姫(さき)に変更され、戸籍には性別と名が訂正して載せられることになったのだ。
女性らしい身体に近付くようにと医師から処方されている薬の所為で、女として高校に通っていても誰も不審を抱かない。

「どうして僕のことを女なんて言うんだ! こんなのは違うっ! 嘘だ! 僕は男だっ! 男なんだっ!」
今、冷静に考えれば、元々女でもあり男でもあっただけのこと。
それが、突然の事故で病院の精密検査によって判明したという事実を、当然だけれど受け入れることが出来なかった。
両性具有だと言われて、驚きよりも怒りが湧いたし、自分に失望して未来に絶望した。
一人で部屋に籠って泣き続け、誰かに、いや世間にバレたら死ぬしかない、と考えていた。
もっと幼い頃に教えられたら、事故に遭わなかったら、と現実逃避を繰り返した日々。
家族の心配する声さえ煩わしかった。怒鳴ったことさえある。
あのままだったら、きっと家庭内暴力を振るっていたかもしれない。
ただただ混乱し、パニックになって空っぽの繭の中で閉じ篭っていたのだ。

けれど、人間とはお腹も空けば音が鳴るし、食べたら排泄も必要で、いつしか正気を取り戻していた。
男として生活しても何の問題もないと医師は言ってくれたし、両親も僕も男のまま暮らすことを望んでいて、意見は一致したかにみえた。
僕の性別など放りだすような問題が起きなければ、今まで通りで、何も知らないフリで生きていけたに違いない。

そう、こうやって男に毎日陵辱され、女言葉で喘ぐよう強要されても逃れられない大問題が起きなければ。

誰が間違ったとか、どうしてとか問題じゃなかった。
この男に何故か興味を持たれてしまった。それが私の未来を決定づけたのだから。
(あああっ~、い、いやっ。いやああああぁ~~~)
あまりに拒否を繰り返すと、更に酷い仕打ちが待っていたから、必死になって男の機嫌が良くなる言葉を考えてしまう。
「・・・お、お願い、します。私に、・・・貴方の、い、入れて、くださ・・・」
最後まで言い終わらないうちに両方の乳首が同時に摘まれ捻られた。
「ひぎぃいいいいい~~。・・・ひっ、・・・ひいぃんんっ」
痛みに引き攣る私をじっと見ていた男は、しばらくすると動き始めた。
ぬちゅっ。ぴちゃっ。ぺろっ。
自分が付けた痛みを拭い去るように大きな口で大胆に乳房を咥えては、たっぷりの唾で乳首を舐め回していく。

何度も両方の乳房を交互に含まれて、徐々に大きな声で喘ぎ出した私の口が男の片手に塞がれると耳元で囁かれた。
「少しは羞恥心を持ったらどうだ?」
クスリと笑われ、かあっと顔が熱くなった。
慌てて口を塞ぎ、喘ぎ声を抑え込む。
それなのに・・・。
この男はワザと私に嬌声を上げさせようと、幾度も乳房を捻り続けては、その膨れた頂を舌で舐め続けたのだった。


情事の余韻など全くない男は、続けて二度も達かされてグッタリした私を床に放り出すと、空気を入替えた窓の戸締りを確認していた。
私の秘所からは止めどなく男の出したモノと自分自身の淫汁が零れ出ており、床をびっしょりと濡らしていた。
先程までの激しくて厭らしい音は消え、シーンと静まり返った部屋にカーテンの閉められるその音だけが響き渡る。

男の横顔と肌蹴られたシャツの間から見える胸元、筋肉のしっかり付いた腕に眼が引き寄せられた。
あんなに恥ずかしい事をしていたのに、何故か今日一番の羞恥に煽られ身体に熱が篭り始めた。
タイミング悪く男が振り返り、赤くなった私の顔をじっと見つめてくる。
無言でこちらに歩いて来る男に、極まりが悪くて出来れば顔を背けて隠したくて堪らない。
けれど、逃げることは許されていなかった。
床に寝転がり放心状態の私の隣に男がゆっくりと腰を下ろし、覆い被さってくるのを目を逸らさずに見ていることしか出来ないのだ。

長い腕が私の顔を挟んで床に置かれ、逃げないよう床に縫い止めてくる。
彼を楽しませる為の羊である私には、自分から拒否する権利を持っておらず、為すがまま振り回されるしかない。
目蓋から頬、口蓋、最後に喉元を舌で嬲られる。
それなのに、・・・どうしてだろう。
まるで愛撫されているような──。

知らずうっとりと身を任せていた私に、男はニヤリと笑うと秘所に指を差し込んで動かしてきた。
「っはぁああっ~。あんっつ、んんっ!」
ぐるりと指を回され、身を逸らせて喘ぐ私の咽元に小さく口づけられる。
その優しい、宥めるような、あやすような仕草に身体が自然に弛緩していった。
それを見逃さなかった男は秘所から指を抜くと、自分の一物で一息に奥深くまで貫いて、もう一度羊の私に情欲を打ち込んできた。
幾度も幾度も奥まで反復し、やがて熱根をギリギリまで引き抜いていく。

熱くて太いソレを引き止めようと秘所がビクビク震え、内壁が太い先端に張り付いて離れないのをリアルに感じてしまう。
恥ずかしくて、気持ちが良くて。
「ひぃいんんっ! やあっ~。あっ、熱い、あ、ついのっ!」
私の惑乱する声に被せるように、巨根が勢いを付けて突き込まれる。
バンっ、バンっと子宮へ届かせるように奥を狙い打ちされ、中に溜まった精液が内壁に塗り付けられていく。
生で出されたモノがグチュグチュと隠微な音を立て、大きな杭の先で幾度も掻き回されては身体の中へ浸透していくような錯覚を覚えた。
自然にピンっと勃ち上がって揺れ出す私の乳首。
それを男が楽しそうに見つめているのに気付き、一気に顔が熱く火照った。
「はぁうぅっ! はぁあああああっ~」
首を遮二無二振り回し、狂おしい情欲から何とか逃れようと足掻く愚かな私。
それなのに・・・。
一層大きな肉のぶつかる音が鼓膜を震わせ、知らず私は自分から腰を振ってしまう。
(ぃやぁあああ~! も、もうっ、もうっ、やめてぇえ~~っ)
声にならない叫びが聞こえたのか、男の杭がグチュっ、ピチャっ、と恥音を響かせながら抜けていく。
(ひいぃ~~~っ。・・・は、はあっ、はあぁ、はぁうぅっ)
抜けていく感触が怖じ気と共に快感を植え付けようとするのが怖かった。

「・・・いくぞ」
ほんの少し掠れた声が、私の耳元に終わりを告げる言葉を吐いた。
(やっ! いやぁあああ~~~~。やっ、やだっ、もういやっ!)
望みが叶えられる筈もない。
「・・・ぃひぎぃいいいい~~っ。ひっ、ひぃぎっ!」
ズブっ、ズンっ、ズンっ、と打ち込まれ、何も分からないほど視界が真っ白になる。
次の瞬間、内壁に精液がぶち撒けられ、天井の綺麗な花の模様が涙に滲んで歪んだ。
「ふぅ。・・・毎回毎回、よくそんなに涙が出るな」
皮肉げに嘲笑するくせに、その右手は私の涙をそっと拭い、残った雫を舌で舐め取ってくれる。
(はあぁっ。はあぁっ、はあっ。・・・あぁっ、あんっ、はぁあんっ!)
男の舌が胸、乳首、臍を通り、下腹、草叢へと下りていく。
草叢に飛んだ精液を何度も何度も舌で舐め取られる感触に震え続けた。

やがて私のラビアに男の両指が当てられ、中が見えるよう大きく拡げられていく。
「やっ! いやぁっ~。・・・あぅううう、んんっ!」
くちゅっ。ぴちゃ・・・、ぴちゅっ。ぺろっ。
舌が秘所の奥深くまで差し込まれ、注ぎ込まれた白濁が前へと掻き出される。
ぐっちゅっ・・・ぐちゅっぐちゅっ・・・。
「・・・ぃや、ぃやああああああ~。・・・ぁああああ~~、し、しないでぇ~」
必死に両手で男の頭を押し、やめさせようとするけれど、力の入らないこの手では止めることなど出来ない。
やっと舌が離れた時には私の身体は火照り、妖しい興奮に包まれていた。
私の顔を無言で覗き込んだ男が激しく口づけてくる。
「ぅんむぅっ。んんっ~! んぐっ・・・」
舌を差し込まれ、ほんの少し口を開いた瞬間、少量の精液が注ぎ込まれた。
驚き目を見開いて男を見やると、ニヤリと笑って見せる。
「・・・・・・んんぐぅ。んぅっ、・・・んんっ!」
最後の一滴まで飲み込んだのを男が確認し、ようやく唇が離れて許されたのだった。

涙ぐんだ私を抱えて立ち上がらせると、男は私に制服を着せて部屋から連れ出した。
人気の無い廊下には夜の気配が差し込み、途端冷たい空気が纏わり付いてくる。
男の大きな掌が腰に当てられ、よろける私を支えて校舎を抜け出した。
送迎者専用の車道に止まっていた外車の扉が開き、男と共に乗り込む。
静かに発進した車は私たちを乗せ、夜の市街地へと進んで行った。

▲▲▲

始まりは脅迫。
先代の御館様を、僕の祖父が強請ったのだ。
祖父は先代に長く仕えていたが、ただの一使用人に過ぎなかった。
雲の上の存在である先代は、祖父の顔も知らなかっただろうと思う。
そんな祖父が、何故これまで仕えてきた人物を強請ったのか。

理由は、僕の両親の事業の失敗だった。
性質の悪いヤクザに借金の返済を迫られ脅されているのを知り、何とかしようとしたのだろう。
けれど、大した蓄えがある筈もなく、悩んだ祖父はお金持ちから少しだけ貰おうと考えたのだ。
勿論、それが悪い行いであり、道徳に悖るのは分かっていたはずだ。
それでも自分の可愛い息子夫婦が苦しんでいるのを見て、実行に移したのだった。

標的に選んだ先代は世界的にも有名な某グループ会社の会長であり、面会を申し出ても簡単に会える筈もない。
結局、仕えていた過去に見聞きしたものを大きく膨らませ、無記名で脅迫状を送ってみたのだという。
最初の脅迫で動くようなら、次の脅迫で金を用立ててもらえるかもと。
浅慮で無謀な、どうしようもない程に呆れた計画だ。
けれど、僕には祖父を責めることは出来なかった。
両親が苦しんでいる時、僕もまた自分の性に苦しみ、周りの状況など見る余裕がない、まさにその時期だったからだ。
勿論、見ていたら何か出来た訳でもないのはわかっている。
それでも、祖父が誰にも相談せず、事を急いだのは僕の所為でもあったのだ。

両親は事業の失敗に加え、僕との関係に亀裂が深まっていくのに苦しんでいた。
祖父にしてみれば、一つでも悩みを消してやりたかったのだ。
だが当然の事ながら、優秀な部下を多く持つ企業にとって、余りにも杜撰な脅迫の仕方だったのだろう。
祖父はあっさりと正体を見破られ、捕まってしまった。
警察にではなく、何故か会長宅に。
連絡を受け、真相を知り慌てた両親は、何とか穏便に処理してもらえるよう直談判しに行くことになった。
病弱な祖父の命を助けて欲しい、警察に突き出さないで下さいと。
僕も連れて行ってと頼んだけれど、首を横に振られ両親だけで出掛けて行った。

初めは門前払いを受け、それでも諦めずに両親は嘆願に出掛けていく。
三回目で面談の日取りを告げられ、重苦しい空気の中にも明るい表情で家を出る姿を見送って小さく息を吐いた。
(これで上手くいけばいいけど。そうならなかったら・・・)
その時、僕の脳裏に浮かんだのは、ある人物から受けた冷たい視線と残酷な要求だった。

「お願いします。どうか、祖父を許して下さい」
脅迫した相手には会えないけれど、僕が入学予定の高校になら、そこの生徒会長になら会える、そう思ったのだ。
彼は会長の初孫で、一番可愛がられていると両親に聞いていた。
「お前が彼と会えれば、もしかして・・・。いや、お前が関わることはない」
そう言って沈み込む両親の様子が辛くて、次の日、意を決して生徒会長を訪ねていた。
周りを取り囲む友人達の視線が痛かったけれど、そんな場合じゃないと怯みそうになる身体を踏ん張り、必死に頼み込んで裏門の外まで来てもらった。

静かに微笑み、生徒会長は黙って僕の話を聞いてくれた。
「込み入ってる話のようだ。続きは場所を変えよう」
そう言われ周りを見回すと、確かに注目を浴びていると気付く。
この人、確か人気者だって話だったな、と女性陣の群れと視線に慌てて俯いた。今更ながら視線が痛い。
注視されているのを完全に無視して、さっさと歩き出す彼の後を黙って付いて歩いた。
小さな喫茶店に入ると、改めて事情を話した。
途中から涙を流して頼み込む僕を彼がじっと見つめている。
ちゃんと聞いてくれているような、そうでもないような、判断が難しくて勢いが萎み始めた頃になって、彼から思いもよらない言葉が飛び出してきた。
一瞬意味が分からず、しばらく考えて理解したと同時にショックで涙が止まっていた。
「お前が俺の玩具になるなら、祖父さまを説得してやろう」
ニヤリと笑う彼が恐かった。
(だ、誰? これは一体誰なんだ?)
椅子の中で後ずさる僕を冷めた目で見つめ、お前が自分の意思で決めるんだな、と言って彼は店を出て行ってしまった。

どうやら無意識に店を出ていたらしい。
トボトボと自宅に戻って来た僕はベッドに飛び込んで目を瞑った。
その様子をドアから覗くようにして両親が心配そうに声を掛けてくる。
「・・・大丈夫。何でも、ないから」
それ以外何が言えただろうか。
まさか、生徒会長がホモだなんて。いや、そこじゃないだろう、被害側が脅迫する方になったんだぞ、とパニックのまま考えがまとまらない。
その日から彼の言葉が頭から離れず、グルグル取り留めのない思考で一杯になっていた。
でも、返答をしないとマズイのは分かっていた。
あそこまで本性を出したのだから、甘い考えは捨てて返答は慎重にしなくてならない、と。

ようやく会長本人に会えた、と両親が報告してくれたのは、それから暫らくしてからだ。
ある条件を呑むことで許してもらえた上に、両親の借金まで払ってくれたと言う。
まず、祖父に何もペナルティを与えない訳にはいかないということで、簡単なボランィアに参加させるという。
会長の用意した老人ホームに引っ越して暮らすことも条件らしい。
自分の過ちを一人で見つめて考えさせようとの理由だそうだ。
その費用を両親が海外で働いて会長に返金することで、この問題は水に流してくれるそうだ、と二人は嬉しそうに笑っていた。

海外へよく仕入れに出掛けていた両親は語学に堪能で、二つ返事で受けることにしたという。
何でも会長夫妻の長女と次女が海外留学で幼少時から向こうへ移住しており、夫妻でよく訪問されているらしい。
治安の良さ、住みやすさを考慮し別邸を幾つも建てており、本家を長男一家に任せて、今は殆ど海外で暮らしているとのこと。
会長は海外でも忙しいのに、大奥様は暇を持て余しているから、今回のように偶に気紛れで帰国していたのだと言う。
ちょうど大奥様の話し相手を捜していたから、両親に白羽の矢が立ったのだろう。
「社長は反対なさったんだけど、先代は寛大に許してくれてね。御孫さんも一緒に加勢して下さったの」
母が興奮しながら僕に教えてくれた。
「・・・それで、ね。嵯季人には高校があるでしょう。社長のお屋敷で住み込みで働くのはどうかって言って下さったの」
「勿論、働くのは土日だけで構わないと先方から言ってくれたんだが・・・」
父は少し困ったように僕を見て告げた。
「ただなぁ、社長の息子さん、つまり会長のお孫さんは嵯季人と同じ高校の生徒会長だそうだ」
助けてもらえて嬉しいが、お前が嫌な気持ちで過ごすくらいなら、と小さく笑って頬を指で撫でる父に胸が痛くなった。
「親戚の誰かにお願いしてもいいんだ。もともと俺達の借金が原因なんだが、嵯季人が一番割を食うことになってゴメンな」
どこに行っても辛い生活になってしまう、と顔を曇らせ申し訳なさそうに両親が選択を促してくる。

正直に言えば嫌だった。当たり前だ。
僕も一緒に連れて行って欲しい。
でも家族の心象が少しでも良くなるなら。
それに・・・。
両親の借金を払ったのは先代ではなく、・・・例の孫だと言うのだ。
「何故か彼が全額返済してくれてね。お前がお屋敷で話し相手になってくれたら嬉しいって言ってくれたんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、何処かで笑っているだろう彼の声が聞こえた気がした。


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