『掌中の珠』   第四話  初出-2009.10.17


帰りは門までお迎えに上がります、と運転手の巳木原さんは言ってくれる。
嬉しいけれど、そうされると私の虚言が見破られ、上級生の女子から呼び出されて身に危険が及びそうで怖かった。
(考え過ぎかな? でも、会長ファンって過激だし)
興味なかったから知らなかったけれど、変態な性癖を隠している利貴さんには様々なタイプのファンが多いそうだ。
その中で一番痛いタイプに、彼の視界に入る女生徒に目を付けては排除する人達がいる、とクラスメートが心配そうに教えてくれていた。
(怖すぎるっ。絶対に誰にもバレないようにしなくては)
毎日、校門を出たところで緊急用にと持たされた携帯で連絡を入れることになった。
「必ず学校まで迎えに来て屋敷へ送るように」
利貴さんに命令されている巳木原さんと、学校では乗りたくない私で押し問答になったのだけれど、何度も状況を訴えて、ようやく粘り勝ちしたのだ。
勿論、利貴さんには内緒で、校門から少し離れた場所で拾ってもらっていた。

学校では必ず部活に所属することになると聞き、色々悩んだ末にパソコン部を選んだ。
戸籍なんてどうでも良かった。両親さえ許してくれたら、どこか遠くに逃げてしまいたい。
いつか男に戻れないかと足掻いている。安月給だろうと肉体労働だろうと、生きていければいい、と。
それでも少しでも他人との接触を減らしたくて。だから、仕事の選択肢が増える部活に入ることにした。

利貴さんは何も言わなかった。遅くなる部活ではないことを確かめてきただけだ。
その点、生徒会長という仕事は昼休みも授業の合間の短い休み時間も動き回っているらしい。
放課後もほぼ毎日生徒会室に詰めているのよ、と部活の先輩(利貴さんのファン)が聞いてもいないのに教えてくれる。
そういえば、と車の中で抱く時間が短いと溜息を吐き、毎回私に不埒な行為を仕掛てくる利貴さんを思い出す。
その情景がありありと浮かんできて、慌ててプルプルと首を振り残像を消そうとする私を先輩が眼を丸くして見つめると、慰めるように言った。
「まぁ、貴女も災難だったわね。彼には熱狂的なファンが多いから出来るだけ近づかない方がいいわよ。一回親切にされただけでまだ睨まれているんでしょう?」
優しくアドバイスしてくれる先輩にコクっと頷いた。
(私も、けっして近付きたくないんですっ。どっちかって言うと、邪魔なんですっ)
言いたくても言えない、その気持ちが表情に出ないように気を付けながら、もう一度大人しく頷いて見せた。
何故なら、この先輩は確かに優しいけれど、ファンクラブに入っている、と知っているからだ。

同級生も怖いけれど、二・三年生の女子はもっと怖い。
元々、結構なお金持ちや家柄の良い人達あるいは県内で成績上位者が集まってくる学校だった。
ここ数年、入学試験を受ける倍率が急に伸びたらしい。
幼等部よりエスカレーター式で高校まで行けるとあって、中々募集人員は増えないというのに。
多分に利貴さんとその友人狙いだろうとの噂が立っていた。
私と同等の庶民生徒は、出来るだけ彼等に近寄りたくないのが本心だけれど。
無視しても怒られるだろうし、出会うのを避けるか俯いて素早く通り過ぎるのが常だった。
身分を弁えないと恐ろしい目に遭うと、入学前から多くの情報が流れていた。


高校生活も3ヶ月目を迎えていた。
普段は屋敷でしか抱かれることはないのに、四日前、生徒会室に連れ込まれて行為に及ばれてしまった。
生徒会役員以外には秘密という奥にある隠し部屋で男の昂ったモノを突き込まれる。
「・・・いやぁああああ~~っ。い、ぃひぃっ、ひいっ。んんっ! んっ・・・。ひ、ひあぁっ・・・」
何でも今年の一年生は奔放な者が多いらしく、イライラが溜まっていたようだ。
サラっと処理するつもりが上手く事が運ばなかったらしい。
何も私で気分転換しなくてもいいのに、と思う。
(・・・でも。・・・こんな時の為に私、居るのかな)
獣のように私を喰らい尽くし満足した利貴さんは、一度私を屋敷へ送り届けると仕事だとまだ出掛けて行った。

ああ、また思い出してしまう、と生徒会室の前を小走りで通り過ぎた。
目を閉じて大きく溜息を吐き、嫌な記憶を葬り出した。
(うん。取りあえず今日も何とか無事に過ごせたみたいだし。後は部活に少し顔を出して早めに帰らせてもらおう)
楽しいことを思い浮かべるのは心を守る為に必要だった。学校でも玩具として扱われるなんて辛すぎる。
そう、今日は久しぶりに気分転嫁出来るのだから楽しまなくては。
帰りに花屋に寄って、お稽古の花を見繕うというミッションがある。
(う~ん、どんな花がいいんだろう)
初めての課題だからって、自分でも気負ってるなぁと笑ってしまう。
(あっ、でも少ない所持金で買えるのかな? お花って高いんだよな、確か。じゃない、高いんだよね。う~、一々言葉を訂正するの面倒臭いなぁ)
マシになったとはいえ、やっぱり思考だけは男言葉が楽だった。

お金は何かあった時に必要だから、出来るだけ使いたくなかった。
耐えられなくて家出、じゃなくて屋敷出することになるかも知れないから。
「廊下の真ん中で百面相するとは面白いヤツだな。どうした、咲姫。珍しく一人か?」
掛けられた声の持ち主は──。
(んぎゃっ! 後ろに悪魔が! 顔が引き攣る~。・・・うわっ、何! 周りに大勢女生徒が群がってるっ。何で、そんな金魚の糞をくっ付けて来るのぉ)
表情と言葉に注意っ、と自分に言い聞かせる。
この後の言動で先輩達に呼び出されたくなかった。
「い、いえ。・・・何でも有りません。気にしないで下さい」
言った途端、利貴さんにギロっと睨まれた。
(・・・はい、口答えしちゃ駄目なのね。折角の気遣いを無駄にした馬鹿はさっさと消えます)
ぺこっとお辞儀してそこから離れようと歩き出した私に、後ろから声が掛かった。
「ねえ。・・・えっと咲姫ちゃん? コイツとどんな関係? そんな冷たい男より俺の方が気持ち良くさせてあげるよ。乗り換えない?」
ビックリして振り返った私の前に、背の高いチャラ男が立っていた。

肩までウェーブ掛かった栗色の髪、耳にはピアスが3つずつ。胸元を見せ付けるように開き、そこに覗くのは銀の2連チェーン。
両肩には綺麗な女性徒2人の手が掛けられており、チャラ男もまた女生徒の腰に両手を回している。
(何、この人。胡散臭い笑顔を振り撒くんじゃないっ! あれ? でも・・・。う~ん? どっかで見たことあるような、ないような。・・・誰、だっけ?)
多分、思考ただ洩れ状態の顔を晒していたんだと思う。
チャラ男は、突然顔を歪めて大げさに嘆き出した。
「あああぁ~~。悲しいっ、悲しいなあ~。この学校にまだ俺を知らない娘が居たなんて~。ヨヨヨ~~っ」
イキナリ芝居っ気を出して床にしゃがみ込み、顔を掌で覆うチャラ男、・・・さん。
(まあ、一応、多分、・・・先輩だろうから)
慌ててしゃがみ込んで心配する女生徒2人を呆然と見つめていると、それに感謝しつつチャラ男さんは腰より下にすかさず手を回していた。

私の何処かで、ヒュ~と冷たい風が吹く音が確かに聞こえた気がした。
(・・・何、この人)
気付くと周囲がザワめいており、確実に見物人が増えていた。
(うぅっ、マズっ・・・)
慌てて私もしゃがんでチャラ男さんに謝るしかない。
「あのっ。あの、御免なさいっ。・・・えっと」
誰だっけ、と必死に思い出そうとした、その時。
ゴンっと凄い音が廊下に響いた。

「いってえぇえええ~。 ・・・何すんだよ!」
如何にもダメージを受けたと主張するようにその人はヨロヨロと立ち上がると、自分の頭を殴った人物に向かって喚き出した。
だけど利貴さんはそれをシラっと無視すると私の腕を掴み、立ち上がるよう促してくる。
その腕に引っ張られるようにして立ち上がると、利貴さんが私の顎に手を掛けて濃厚なキスを仕掛けてきた。
(んんっ、んんぅ~~~っ。う、うそっ、ちょっ・・・。な、何してんのぉ~~。やだ、やあっ。舌入れちゃ駄目ぇ~~)
口腔に舌が差し込まれ、その慣れた感触に身体が条件反射で火照っていくのが分かった。

一瞬で周囲がシーンとなったことには気づいていた。でも、知らないフリをしたかった。
これは夢、夢だから。うん、絶対に夢、なんだから。
「ちょっと、ねぇ君たち。ココ往来なんだけど。しかも学校よ? ・・・お~い、聞いてるか~い?」
その言葉に、薄い霧に包まれかけた意識がパッとクリアになった。
ドンドン、と胸を押して利貴さんと離れようとするけれど、逆に胸元に引き寄せられる。
私を腕一本で引き止めたまま、ブレザーの懐に手を入れると利貴さんは携帯を取り出した。
「・・・巳木原か? 今直ぐ迎えに来い。・・・そうだ、咲姫を屋敷へ戻す」
(えっ?)
突き刺すような激しい視線を向ける女生徒達と目を合わせられず、俯いたままで利貴さんの言葉に驚いていた。

何が起こっているのか分からなかった。どうして利貴さんは私の腕を放してくれないのだろう。
屋敷に帰される理由も怒ったような口調の意味も必死に考えているというのに、チャラ男さんがのんびりと話し掛けて来る。
「おいおい。・・・いやまあ、この騒ぎの中、咲姫ちゃんを置いとくのは確かに拙いってか、危険だけどさ。・・・あれ? お前の屋敷って?」
(おい、こら。余計なことに気付くな~~っ)
思わず声にしてしまった、と焦ったけれど、どうやら口には出していないようでホっとする。
喋らないでおこう、と利貴さんへと少し近寄っておいた。
周囲は、チャラ男さんの台詞を反芻した女生徒達が声を顰めて話し合っていた。
さっきよりも恐ろしい目で睨んでくる女生徒も彼方此方にいて、怖くなって俯いてしまった。
彼女達以外は、滅多にない面白い物を見たと男子生徒達が騒いでいる。
(マズイっ。このままじゃ学校中にバレちゃうっ・・・)
怖くなって、知らず利貴さんの胸にしがみ付いていたら、当然のように抱き締められてしまった。

どうしよう、どうやってこの状況から抜け出そう、と焦っていた。
巳木原さんは校舎内には入れない。だから私から車へと向かわないと行けないのに、大勢の中を歩いて行く勇気はなかった。
ここはやっぱり利貴さんに別の場所へ移動してもらって、と思いついた時。
彼の手が私の背中に回ると、クルっと方向転換させられて押されるようにして階段に向かい始めた。
人混みがササーと両側に割れたから、その中を俯いて進んで行くしかない。
無言で階段を下りると、玄関にある下駄箱へと直行した。
横に利貴さん以外の誰かの気配を感じて、そぉ~っと顔を上げてみた。
すると、何故かさっきの名無しのチャラ男さんが立っている。
(えっと、・・・結局この人は誰?)
疑問に思ったけれど、まずはここから抜け出すのが先決だった。

最初に私の下駄箱に寄り、靴を履き替えた。その間、2人は周りの視線から私を守ってくれるように前に立ちはだかっている。
(うわっ。 階段に好奇心いっぱいの生徒達がっ)
元凶2人も靴を履き替えると、私を両側から守るようにして送迎車専用の車寄せへと歩いて行った。
毎日近くに待機しているとはいえ、この時間に車が迎えに来たことはなかった。
(まだ時間、掛かるよね。それまで、・・・この元凶と一緒にいるの?)
勿論、今回の元凶は2人だ。私に落ち度はない。ない、・・・筈。
困った事に、開いた窓から大勢の刺々しい視線がここでも私に突き刺さってくる。
(う~。明日から学校来るの嫌だな) 
どうしてこうなったんだろう。

「咲姫ちゃん」
俯いている私に、チャラ男さんが呼び掛けてきた。
目線があった途端、ホっとした顔で笑い掛けてくる。
「ご免ね。・・・何か俺のせいで、コイツ切れちゃったみたいだ」
(え・・・? 何で? 別に切れるような言動、あったかな?)
首を傾げてチャラ男さんを見つめていると、背後からグイっと体ごと利貴さんに向き直された。
「・・・何ですか?」
用が有るのかと、一応お伺いを立ててみた。
「・・・・・・」
(あのね、貴方のせいで、私こんな目にっ。だからっ、何で黙るの、そこでっ)
くすくすと後方から楽しそうに笑う声が聞こえてきた。
「いいじゃんか、ねえ、ちょっと顔見合わせたぐらい、さ。咲姫ちゃんもそう思うだろ」
「・・・勝手に名前を呼ぶな」
低音が耳に響いて胸が痛い。何がどうなって機嫌が悪いのだろう。
(えっと~。・・・そのブリザード止めて下さい、恐いから。せめてお屋敷に帰って来る時には鎮めといて下さい。お願いっ)
安全な屋敷に戻ってもその状態は流石に辛い。

そうこうしている間に、いつも迎えに来る車種が見えてきた。
(あっ、アレだよね。良かった。早くここから、この人達から離れたいっ!)
今出来る唯一の逃避手段が近付いてくる。
(早くっ、早く来てっ。私を元凶2人から救い出して!)
冷たい空気を纏う男とチャラ男さんに挟まれて居た堪れなかった。
こんなに居心地が悪いのは久しぶりだった。
利貴さんの機嫌が一向に収まらないから、夜までこのままだったら痛むのは間違いなかった。

やがて、如何にも高級車ですというピカピカの車体が静かに停まった。
利貴さんは降りてこようとする巳木原さんを何故か手で制すると、自分で後部座席のドアを開いていく。
(早く乗って帰れって事? はいはい、分かりましたよ)
私が奥に座ったのを確認すると、巳木原さんが自動でドアを閉めてくれた。

ハァ、やれやれっと溜息を吐いていると、チャラ男さんが発進しようとする巳木原さんに合図を送り、後部座席のガラスを下げさせたようだ。
まだ何か私に用事があるのだろうか?
「咲姫ちゃん、ご免ね。騒ぎになってさ。ま、一番悪いのはコイツだけど。まだ名乗ってなかったよね。俺は副会長の内洞って言うんだ」
全く可愛くないのに、首を傾げないで欲しい。
「う、ち、ほ、ら。内洞洵季(じゅんき)っていうんだ。コイツの幼馴染。今度は覚えてね」
空中で、こうだよって漢字を書いて教えてくれる。
(ふうん、何か最初の印象と違って普通の人、かな)
子供に教える言動に少しだけムっとするけれど、丁寧なだけなのだろう。
「はい。内洞さんですね」
「そうそう。宜しくねえええええ~~っ。・・・引っ張るなよ! いいじゃんか、ちょっと喋るぐらい!」
窓から突然後ろに下がったと思ったら、今度はボコっと大きな音がした。
(一体何が・・・)
覗こうと腰を動かす前に巳木原さんが車を出してしまった。
運転席でミラーを見ながら、一瞬笑っていたような気がするけれど、まさかね。

石でも当たったかな、と音の正体が気になって振り返ろうとする私に、運転席から声が掛かった。
「咲姫様、本日は花屋に寄られるとの事でしたが、若様よりお屋敷へ真っ直ぐお連れするよう言われております」
普段より少しだけ楽しそうな声音だった。
「お花の方は屋敷の庭からお選びになって下さい。すでに狭桐さんが庭師の者と話を付けておりますので」
利貴さんはいつ狭桐さんまで話を通したのだろう。というか、私の今日の予定、ちゃんと覚えているんだ。
(あぁ、お花屋さんがっ。・・・でも仕方ない、よね。私の支配者がそう言ってるんだから)
諦めるしかないのだろう、とそっと息を吐いた。
「はい、分かりました。お手数掛けて御免なさい」
久しぶりにゆっくり一人で買い物出来ると思っていたから残念だけど、しょうがない。
車は渋滞に嵌まることなく、通常通り50分ほどで屋敷の玄関に着いたのだった。

▲▲▲

東の正門ではなく南門を通って車は進み、初めての場所に降ろされた。
巳木原さんに教えられた通り、壁伝いに歩いて庭の方へと向かった。
鞄を左手に持ち替え、歩きながら右手で髪に指を入れザっと手櫛で整える。
風が頬に当たり、気持ちがいい。
女の子でも髪が短い子は多いんだから短髪でいようと思っていたのに、何故か利貴さんは長く伸ばすようにと私に命令してきた。
(髪ぐらい好きにさせてくれないかなぁ)
再度鞄を右手で握り、右に曲がった。
(ここに出るのか~。覚えとこうっと)
いつかの秘密基地、地下の住居への入り口が見え、車道を挟んで庭が繋がっている。
この道路は業者や使用人専用だと聞いていた。
確かにバンが数台停まっているし、普通乗用車も1台停まっているようだ。

あれ以来、中々来れなかった場所はやっぱり新鮮な気持ちを運んで来てくれる。
花を切らせてもらおうと車道を素早く横切り、庭へと向かった。
流石にここには警備犬も警備員も居ないようだ。
色とりどりの花々を眺めつつ、少し先に見える温室へと歩いた。
その前で、敷地内に住む使用人の子ども達が元気に走り回って遊んでいたからだ。
小学生に上がったばかりの子達で、この庭で自由に遊ぶことを許されているのだろう。

私に気付いた三人がわあっと駆け寄って来た。
「咲姫様! お帰りなさいませ~」
「お帰りなさ~い。一緒に遊びましょう。ねえ、遊びましょう」
それぞれに両手をガシっと握られる。
「わあ~。高校のカバンだあ。・・・おっも~い!」
琴菜ちゃんが私から鞄を取って振り回そうとし、重さに撃沈していた。
(あぁ、可愛い。心が安らぐ~~っ)
それを見た2人が私から手を離すと、手を叩いて楽しそうに笑い始めた。
「琴ちゃん、カバンに負けてる~」
「可哀想、カバンに負けるなんて。よしよしっ」
その微笑ましい光景に、いつしか先程までの鬱とした気分が吹っ飛んでいた。

せがまれて琴菜ちゃんから鞄を受け取ると、はい、と中を開いて見せた。
「ほら、この辞書が重いんだよ。こっちの教科書もブ厚いでしょ」
持てなかった理由を教えると、琴菜ちゃんがニコッと笑ってくれた。
「んっとね。琴の買ってもらったランドセルも重いの。こう、ね、身体がヨロケちゃうの。でねっ、でねっ琴にはまだ無理だって皆で笑うんだよ! ひどいよね!」
言いながらプンプンした表情に変わったと思ったら、次の瞬間には嬉しそうに目を輝かせてきた。
「 ・・・ほら、アソコにあるの! 琴の宝物なの」
そう言うと立ち上がり、温室の前のテーブルに一直線に走っていく。

テーブルには3人が広げまくった教科書やノートが散乱していた。
椅子の背には、鮮やかな色のランドセルが3つ掛かっている。
邪魔しちゃったかな、と傍の2人に宿題は終わったのか聞いてみると、
「・・・ぅ・・・。ま、まだ」
「えっ、と・・・。あとちょっと、かな」
可愛いなあ、と思って見ていたら、琴菜ちゃんが呼ぶ声が聞こえて来た。
一緒に勉強しようねと、2人の手を握ると、楽しそうにノートを掲げている琴菜ちゃんの居るテーブルへと向かった。

4人でワイワイと騒ぎながらも楽しい時間が過ぎていく。
ようやく宿題が終わった頃、銀の大きなトレイに飲み物とお菓子を乗せて美耶子さんがやって来た。
「お帰りなさいませ、咲姫様。一息お入れ下さい」
テーブルに置かれるのをキラキラした眼で3人が見つめていて可愛いらしい。
私も美耶子さんも笑いを堪えて澄まし顔だったが、あまりお預けするのも可哀想で早速頂くことにした。
ここでは私が言葉を掛けない限り、誰であろうと食べることも飲む事も出来ないのだと教えられていたからだ。
初めて聞いた時はビックリして抗議したけれど、どんなに言っても誰もそんなルールを反古にしてくれない。
根負けした私は仕方なくそれに従うしかなかった。でもこれっておかしいよね。
(私があの人の部屋で寝起きしてるから皆勘違いしてるだけで、本当は使用人以下なんだけどな)
だからって、自分からこの屋敷の優しい人達に玩具だと伝えることは出来なかった。

立たせたままの美耶子さんに悪くて、出来るだけ急いで済ませることにした。
軽くお腹も空いていたし、ずっと何も飲んでいなかったから一分も掛かっていないと思う。
(利貴さんや、礼儀作法の先生にバレたら叱られるかな)
ちょっと心配で美耶子さんに視線を向けるとニッコリ笑ってくれた。
(これは、・・・多分大丈夫。黙ってくれると言っている・・・筈)
バイバイ、と手を振って食べ続ける3人と別れると、綺麗に咲き誇っている花壇を美耶子さんと観て周った。
(うぅ~。断ったのに鞄を取られちゃった・・・)
見た目は可愛らしい人なのに、美耶子さんはかなり押しが強かった。
それに、この屋敷では上の方なのか、さっきも後片付けを別の使用人に指示していた。

いつしか、庭師お薦めの一角に辿り着いていたらしい。
現れた広い空間に視線をやると、そこは一面の花の祭典だった。
赤、黄、緑。ピンク、淡いオレンジ、黒っぽいのも紫もある。
白がその間にアクセントで差し込まれていて、眼に優しい配置で植え込まれていた。
本物の小さな川が流れ、可愛い橋が架かっており、まるで有料の公園のようだった。
どの方向を見回しても、美しい光景に溜息しか出て来ない。

どれくらい経ってからか。見蕩れてぼうっ突っ立っている私に誰かが近付いて来る気配がしたので振り向いた。
「咲姫様、こちらがここを任せている滝藤(たきとう)です」
70歳に近いだろうお爺さんが、汗だくの身体を拭きながら私にペコっとお辞儀する。
「滝藤でございます。宜しくお願いします。 ・・・今日は授業用に花をご所望だとか。お好きな花を持っていって下さい」
丁寧な言葉に私も恐縮しながら滝藤さんに挨拶を返した。
「初めまして。本居(もとおり)咲姫です。今日は宜しくお願いします」
厳しい勉強の成果か、女らしく静かにゆっくりと頭を下げた。
「いやいや。いつでも自由においで下さい。私が言うのもおこがましいですが、どの花も自信作でして。今が盛りの花もたくさんありますよ」
優しい目で花々を見つめる滝藤さん。本当に自慢なんだろうな、と思った。
「ありがとう御座います。生け花用に、ほんの少しだけ頂きますね」
「お好きなだけ構いませんよ。ゆっくりとお選び下さい。・・・決まったら私が切りましょう」
最後の台詞は、私の後ろに控えている美耶子さんに伝えていた。
(自分で切っちゃ駄目なのかな? ・・・あっ、そうか。せっかく綺麗に咲いている花だから変な風に切って欲しくないのかも)
色とりどりの花の競演は素晴らしかった。
時間を忘れて見蕩れてしまい、夕食の時間に遅れてしまったけれど、そんな私に狭桐さんは微笑んで出迎えてくれた。
でも、もしかしたら美耶子さんが怒られたかも知れない。
後からもう一度謝ろうと思った。

数種類の切った花の素晴らしさは、きっと先生にも褒められる出来に違いなかった。
(問題は・・・。私の腕、だよねぇ~~)
夕食を一人で食べながら、そんな事を考えていた。
学校のことは、多分、無理やり忘れようとしているのだろう。
だって、怖いから。まだ利貴さんが怒っていたら、我が身が危険だと知っていた。
理由が分からないのに謝っても叱られるし、どう対処すれば正解なのか分からなかった。

20時になって、お花の先生がやって来た。
まだ五回目だけれど、優し気な顔立ちの割りに結構厳しい先生で、初回から着物の着付けで怒られ、二回目は優雅さがないと仕草を怒られた。
(いや、着物なんてそもそも着たことないし。スカートで歩くのって下から風が来て気持ち悪いし)
今日も怒られるのかなぁと思っていたけど、花の選択を褒められてやっと普通の授業に入ってくれたのだった。
勿論、行儀作法をもっと確り勉強するように言われてしまいました。

私の習い事の先生方は全員ある有名な恩師に師事した間柄で、どうやら皆で私を早く一人前にする為にタッグを組んでいるようだった。
授業が終わって玄関まで見送りに出たところ、途中のお喋りで言葉遣いを叱られ、玄関ではお辞儀の角度を何度も訂正されてしまった。
(うん、うん。分かりました、分かりましたってば)
ようやく先生が玄関から出て行ってくれて大きな溜息を吐いていると、美耶子さんが横でクスクス笑い始めた。
「お茶を用意させますね。・・・お着替え、手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。自分で出来るようにしないと」
まだ少し笑っている美耶子さんと別れて自室に戻ると、着物を脱いで洋服を手に取った。
着物も洋服も、事前に利貴さんから渡されたスケジュール管理通りに用意されており、私に出来るのは軽く畳んで洗濯用BOXに入れるだけになっていた。

部活から戻った亜耶子さんが内線をくれたので、1階の図書室で一緒にお茶をしましょうと提案した。
利貴さんには不要な場所なので、絶対に入って来ない安心感がこの図書室にはあった。
戸張姉妹を誘って愚痴や内緒話するには、まずこの場所を選んでいた。

学校の様子を聞きたくて、でも切り出しにくいなぁ、と思っていたら、笑って彼女の方から話を進めてくれたので助かった。
亜耶子さんによると、予想通りの反応が起こっているらしい。
特に三年生の女生徒達が、明日私が登校するのを待っているようだと聞かされてテーブルに突っ伏した。
(あぁ、やっぱりぃ~~。・・・学校、行きたくないなぁ)
クスクス笑い、しばらく休んだ方がいいわよ、と言うと亜耶子さんは部屋へ戻って行った。
美耶子さんと亜耶子さんは同じ1階に部屋をもらっているという。
きっと後で美耶子さんにも今日の出来事を詳しく報告するんだろうなぁ、とちょっと憂鬱になってしまった。

▲▲▲

花の図鑑をパラパラ見て、落ち着かない気分で就寝前の時間を過ごした。
やがて、屋敷の者たちがバタバタと動き出す気配が静かな部屋に洩れ聞こえてくる。
(ハアっ、・・・帰ってきちゃった)
パタンっと本を閉じ書架に戻すと、図書室を出て玄関ホールに向かった。
既に手の空いた全員が両壁に一列に揃い、屋敷の主を出迎える為に立っている。
玄関の真正面に私が立った時、扉が開いて3人の黒服のボディガードが先に入って来ると素早く横に移動した。
続いて、いつも通り凄みのある切れ長の眼を光らせた利貴さんが、自信に満ちた足取りでホールに入って来た。
「お帰りなさいませ」
丁寧なお辞儀と共に、揃った声が広いホールに響き渡る。
何度見ても凄いなあ~っ、と感心して見ていた私に利貴さんが迫ってくる。
(うっ・・・)
ゴクっと喉の奥に引っ掛かった唾を呑み込んだ。
軽く腰を屈めた利貴さんの顔が私に近付き、激しく唇を奪われる。
ちゅっ。ちゅっばっ、くちゅ・・・っ。ちゅっぶっ。
「・・・んっ。んんっ、ちょっ・・・。あ、あむぅっ、ん、んっ。はぁうっ・・・、んんっ・・・」
たっぷり1分は貪られてから、ようやく顔が離れていった。
知らず私の指が利貴さんのスーツの裾を握っており、皺を作っているのに気付いた。
急いで指を離すと、バレない内に、とこっそり指の腹で皺を取り始めた。
しばらくして、利貴さんの視線を感じて一度顔を上げてしまったけれど、真っ赤になった頬のまま何となく止められずに続けてしまった。

どうしよう、と焦っている間に、腰に利貴さんの手が回ってきた。
あっという間に抱え上げられた私は、周囲の視線を感じる前に俯いてしまう。
歩きやすいように脚の裏に太い腕が入って横抱きにされた。
慌てて落ちないように腕を伸ばし、男らしいがっちりした首に絡めて掴まった。
使用人の視線を避ける為に首を竦めると、利貴さんから放たれる香水と汗の匂いが私に困った気持ちを起こさせていく。
そんな私を置き去りに、狭桐さんが先導に立つと私達の部屋にと厳かに先導し始めた。
後ろから付いてくる使用人らが続々と其々の仕事場へ戻って行く気配がして、誰も何も言わないのが恥ずかしかった。

1階の長い廊下を通り、狭桐さんが押さえてくれている扉の中へと入った。
奥のベッドでゆっくりと降ろされた私の身体は疼きと熱に侵されており、離れていく利貴さんの腕を思わず引き止めていた。
「あっ。ご、ごめん、なさい・・・」
いつもと同じように利貴さんの匂いに簡単に狂わされる自分が恥ずかしく、顔を上げることが出来なかった。
やがて、利貴さんが黙って私の頬を大きな掌で挟み込んできた。
羞恥に目を伏せる私を上向かせ、唇がその羞恥ごと奪うように激しく口付けられる。
「はあぁっ・・・、ぁあんっ。んんっ! んっ・・・、あはぁっ・・・」
「すぐに戻って犯してやる。脚を開いて待ってろ」
離れ際に耳元に囁かれ、ゾクっと身体が震えた。
パタンっと扉が閉まるまで利貴さんの背を視線で追っている愚かな私がそこに居た。


ぐちゅっ、くちゅっ・・・。ぬちゃ、ぬちゅっ。
お尻の穴から恥ずかしい音が漏れ出し、私をより一層おかしくさせる。
最初に狙われたのは秘所で、時折忘れていないことを教えるようにお尻の穴が弄られていた。
時間を掛けて拡かれた場所を太くて長い昂ったモノで最奥まで貫かれ、掠れた声しか上げられない。
そんな私の指を取り、利貴さんが口に含んでは舌で舐めていく。
その仕草にさえ感じてしまい、はしたない淫液が震えるペニスから零れ続けた。
際まで引き抜かれた男根が焦らすようにゆっくりと突き込まれ、身体の火照りはいつまでも引くことを許されなかった。
真上から見つめる男は、涼しい顔でどうしたらいいか判らなくて困惑する様をじっくりと愉しんでいる。
常ならば激しく蹂躙されている身体が焦らすようなもどかしさに揺れ、意志を乗っ取って恥ずかし気もなく淫らに秘所を蠢かすのだ。

利貴さんが唇の端に舌を覗かせ、厭らしく口唇を舐めて濡らしていく。
私の視線はその仕草に吸い付けられ、胸の突起がズクっと疼いた。
「・・・お願いっ。・・・もっと・・・」
ピンっと勃ち上がった乳首と激しく勃起しているペニスを利貴さんへと押し付ける。
(あぁ、恥ずかしいよぉ~。でも、でも、・・・我慢できない~~)
「もっと・・・何だ」
ワザと問いかける利貴さんを、潤んでいるだろう瞳で睨み付けた。
ククっと笑い、腰に回されている私の足首を掴み取ると、思い切り大きく開いていく。
(ぃやぁあああ~~~っ!)
数回激しく突き込んだ後、嵌まっていた大きな一物は引き抜かれ、息も絶え絶えな私の脚をガシっと掴んで頭の両横に置くように
布に押し付けた。
その状態のままキープされ、恥ずかしい秘所もお尻の穴までもが丸見えになる。
「嫌ぁああああ~~~。・・・そんなっ、い、嫌だぁあああ~~~~っ」
もがく私の秘所に、激しく脈打つ巨根を突き込まれ絶叫する。
次の瞬間、絶頂に導かれた私を見ながら、利貴さんの大量の精液が中へと注がれていった。

全てを私の中に収めた男は、私の髪に口付けすると、ズブっズブブっと男根を抜き出し始めた。
「あはぁんんっ! はぁああ~~~っ。あはっ・・・、はっ、はぁっ!」
心地よい余韻が私を包み込み始めたその時、脚を更に持ち上げられ小さな尻穴に男根の先端が入り込んだ。
「いぃひぃいいい~~~っ! ぎぃ、ぎぃいひいぃいいい~~~! い、痛いっ、痛いぃ!いや、 嫌だっ、嫌っ、嫌ぁああああ~~~~っ!」
顔の横にキープされた両脚がプルプルと震え、汗が身体中から噴き出してくる。
何度されても慣れることのない痛みが続き、男の濡れた唇で宥めるように舐められた顔の緊張さえ解くことが出来ない。
じりじりと長い時間を掛けて全てが納められた。
間を置かずに太い杭が出し入れされ、小さかった穴が信じられない大きさに拡かれていく。
ソレを喜んで招いているのが、私のペニスから零れ出る淫液と利貴さんが秘所に注いだ精液だと濡れた音で判って恥ずかしい。
利貴さんの為すがままに蹂躙され、刺激に勃ち上がった乳首に軽く歯を立てられて甘い声を上げた。

利貴さんの匂いが身体中に染み込み、自分と彼との境界線が無くなっていく。
覚束無い指を彼の背に立てると、無自覚に引っかいていた。
やがて秘所と同じ量の白濁が私の尻穴に注ぎ込まれ、長い杭によって攪拌されてしまう。
同時に、じゅぷ、じゅぷっと大きく穴の開いたままの秘所から精液が漏れ出しては、皺だらけのシ-ツに染み込んで消えていった。

シーツから濡れた感触を受け、羞恥に震えつつも快感に思考を乗っ取られた私は、じっと利貴さんが見つめているとも気付かずに、自分のペニスへと手を伸ばしていた。

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