【 光明すらも無に変えて 】 初出-2010.01.31

これは次男の話になります。BL短編1に兄。NL小説に妹。キーワードは『光明』です。


キラキラと降り注がれる光を見上げていた。
まるで別世界のようだと。

僕の居る場所。
それは淫靡で汚辱に塗れた世界。
暗い地下に誰にも内緒で作られた秘密の部屋。
僕は毎日、宝石のような朝の光が降り注ぐ小窓を見上げては、早くここから出たいと願っていた。

自由がない訳じゃない。今日のようにマスターが居ない時だけは1階を歩くことが出来る。
けれど、地下牢で暮らすのはもうご免だった。
あの酷い家族に虐げられた日々を思い出してしまうからだ。

忘れたい。心から。
だから・・・。
僕は、マスターの望む完璧な牝豚になって、ここから出してもらうと決めているのだ。

全てを支配するマスター。
彼に可愛がってもらい、捨てられないように仕えて彼だけに従って生きていく。
それだけが凍える僕の心を支えていた。



坊主頭の義父とロングヘアの母。
賢くて格好いい兄。可愛くて少しだけ我儘な妹。その中間に僕は生まれた。

僕は家族から除け者にされて暮らしていた。
それには理由があり、この事情を母は何度も僕に教え続けた。
自分たち家族に僕の存在は邪魔だと刻み付けたかったのだろう。

別に大した理由ではなかった。
母は小学校に入ったばかりの兄から突然独立宣言され、その悲しみから男を誘って性行為を持ったのだ。
僕の遺伝子提供者、いわゆる浮気相手と。
母が妊娠に気付いた時には遅すぎて、僕を堕ろすことが出来なかった。
出産後に施設の前にでも捨てるつもりだったようだが、兄の次の一言でからくも僕は救われたらしい。
「お母さん。僕が病気になったとき、この子の身体を使えないかな」
本気で言ったとは思えない。いくら賢いと評判の兄であっても。
多分、世間体を考えて僕を救うことにしたのだろう。

最初の夫を事故で亡くし、女手一つで兄を育ててきた母。
幼少時から頭が良くて他の子と比べて利発だったことから、兄の教育には力を入れてきたという。
最高の大学まで進ませたい、と自らの身を夜の世界に沈めてまでも。
猫可愛がりしてきた自慢の息子に頼まれたからか、それとも本当に言葉通りに使えると思ったのか。
僕は物心ついてからずっと、家族全員の使用人として扱われることになった。

ある年、兄の為だと自分を叱咤して頑張ってきた母に次の転機が訪れた
店に訪れたヤクザ崩れの男と知り合い、その見た目と裏腹の優しさと経済力に惹かれて結婚したのだ。
すぐに妹が生まれ、義父にとっては初めての、母にとっては兄の代わりに可愛がる対象として、両親の関心は妹に向けられていった。
普通ならここで自分の境遇を嘆くべきなのだろう。
だが、元々母と兄からは使用人のように扱われており、悲観する気も起きなかった。
そう、義父の視線に気付くまでは。
戸籍上の父、幸造(こうぞう)は僕の存在に思うことがあったらしく、母に意見するようになっていたのだ。
「おい。アレ、邪魔だと思わないか。さっさとどっかへ捨てちまえよ。異物が目に入ってうっとおしいったらないぜ。俺たち家族には必要ないだろう?」
当時、義父の仕事は上手くいっておらず、僕の存在が疎ましかったようだ。
義父の言葉に母も頷いて言った。
「私もアレを捨てたいのよ。でもね~、幾ら何でもその辺にポイっと捨てるわけにいかないのよね。近所の目もあるし。誰かに売るにしても、せめて中学校に上がるまでは我慢しなくちゃ」
その言葉を聞いた義父の口から、とんでもない言葉が飛び出した。
「なるほど。その手があったか。うん、お前に似て美人と言えなくもないしな。俺の商売相手にも男好き、いや少年好きの奴は大勢いるからな。今の内から繋ぎを取っておくか」
「まあ、そうしてくれるかしら。嬉しいわ。アレを厄介払い出来る上にお金も入って、貴方の商売も上手くいくのね。すごくイイ考えよ、貴方」
抱き付いてくる母に満更でもない顔を見せた義父はガハハっと笑った。
僕の青褪めた顔には、誰一人気付かない。
両親の傍で勉強していた兄でさえも。

いや、違う。兄の唇が小さく笑みの形になっていた。
そしてそんな表情はあまりにも日常過ぎて無意識に気付かないフリをしてしまったのだろう。

誰も僕を助けてはくれない。
初めて心から絶望し、僕は自分を抱き締めていた。



壁を背に座り、待ち合わせた相手が機嫌よく喋り続けるのに相槌を打っていく。
「・・・そんな訳で助かったよ。お前があんな高額でアレを引き取ってくれてよ」
よほど資金繰りに困っていたのだろう。普段は強気の男が、無い髪の毛を触るように頭を撫でて私を見ている。
警察沙汰になるのは間違いない商品を彼から買って転売するのは、すでに十数回を超えていた。
「幸造さんには良くしてもらったからね。君を助けられて私も嬉しいよ」
誰にでも分かるお世辞だったのだが、それに気付かない幸造はガハハっと笑って私に尋ねた。
「いやぁ、俺もあそこまで高く売れるとは思わなかった。おい、どんなのでもあの値段で売れるのか?  俺も商売替えするべきかね、ガハハハ」
「う~ん。人それぞれだからね。どうなのかな? 私の場合は君との付き合いで多少だがイロを付けたしね。それに、もしソッチで商売するんならイザコザにも注意が必要になるんじゃないのかな」
私がワザと心配そうに忠告すると、幸造はそれもそうだなと頷いてくる。
相変わらず、顔と違って単純で扱いやすい。
(馬鹿な男だ。この男は自分の女房がどんなオンナなのか気付いていない)
さぞかし、女房にイイように使われているに違いない。
悪女と呼ばれるSMの女王を妻にした愚かな男。
未だに相手の本性を見抜くことも出来ないとは。
ただ金を運ぶ為だけ選ばれた、そう知らないのは幸せなのだろうか。

あの女が本当に愛していたのは、最初の夫だけ。
そして今、あの女の生き甲斐になっているのは夫にそっくりな息子であり、彼に必要とされる為だけに生きているようだった。
写真で見た可愛い女の子も、幸造に似ている部分が多々あり、そのうち邪魔にされるのは間違いない。
兄にベッタリで妬けると、この男もたまに口にしているのだから。

まあ今は、そんなことはどうでもいい。
私の興味を引くものは、我が家の地下牢にいるアレだけだ。
この幸造から買い取った、昔は人間だった少年。
間に業者を入れたことになっているから、幸造は私がアレを手に入れたとは知らない。
出来るだけ少年っぽさを残そうと注意しながら調教してきた可愛い牝豚。
ニタニタと笑う幸造を無視して、私は股間を熱くしながら思い出していた。
今頃、必死に喘ぎを押し殺し、私の帰りを待っているだろう淫乱なアレのことを。



義父が僕をマスターへ売り渡したと教えられた時は愕然とした。
借金がかさんでいた義父が予定より早めに大金が必要になり、売買の繋ぎをマスターへ頼んできたのだという。
彼は、僕を牝豚として飼育するつもりだと告げた。
初めは意味が分からなかった。中学にもまだ入れない年だったから人間を飼育する趣味を持つ人がいるなんて知らなかったのだ。
困惑していた僕は、男の為すがままになってしまった。
それが悪かったのだろう。抵抗もしなかった僕の身体を強引に開いて、マスターはその大きなモノを躊躇なく僕の尻の穴へと突き入れてきた。
「ひっ、ぎゃぁあああああああああ~~~っ!」
言うのも恥ずかしい場所が切れたのだろう、僕の鼻へと血の匂いが漂う。
強烈な痛みで失神することが出来なかった僕は、下半身に入ったそれが何なのか理解した瞬間、ようやく気絶することが出来たのだった。

次の日から、僕は地獄の中で過ごすことになった。
意に染まぬ行為。それも男同士の。
調教という名で行われるのは、僕の全てを壊す屈辱の数々。
たとえ、あの家で不遇な暮らしを強いられていたとしても、少なくとも僕は人間として暮らしていたのに。
ここでの僕は人間としてさえ見てもらえないのだ。

そうして、神経が擦り切れる寸前の僕を奥底へと堕とすように、男はいつもの台詞を囁き続ける。
「何も考える必要はないだろう? お前は私の牝豚なのだから」
「ほら、意地を張るから痛いんだよ。さあ、私の与える行為を喜んで受け取りなさい。それだけで全てが変わる。そう、お前は生まれ変われるんだよ。牝豚にね」
耳を塞いで男の声から逃げたかった。
でも、眠っている間さえ夢に出てくる言葉に怯えるしかない。
徐々に、心だけでなく身体に染み込んでくる甘い誘惑の声が怖かった。
言うことさえ聞けば楽になると教えてくるのだから。
「そんなに苛めて欲しいのかい? ならアレを持って来ようね」
「ああ、そうだ、いい子だね。・・・ほ~ら、気持ちイイだろう?」
「うん、いいね。今日の啼き声も可愛かったよ。明日も頑張るんだよ」

男は僕に自分のことをマスターと呼ばせ、家畜として扱っていく。
終わることのない痛みに、僕の神経はおかしくなっていたのだろう。
或る日、僕は進んでマスターに完全服従していたのだった。
「よし、よし。何て可愛い牝豚だろう。さぁ、ご褒美だよ」
上機嫌のマスターに与えられたモノ、それは鏡だった。
裸電球一つしかない地下牢だったが、唯一天井をくり抜くようにして取り付けられたガラスの窓から月光が差し込んでいる。
そこから漏れる明かりと電球によって、大きな姿見に僕の全身が映っていた。
「ひっ、ひぎぃっ! ゃっ、いゃぁっ! ひ、ひぎぃ~、ひ、ひ、ひっ・・・!」
映っていたのは・・・。
一匹の淫らな家畜。そう、牝豚と呼ぶに相応しいモノ。
それが僕だった。
もう戻れない。そう、思ってしまうほどに異質な姿がそこにあった。


驚愕が過ぎ、落ち着いてくると、僕は小さく笑った。
(うん、そうだよね。もう、戻れないし、戻る場所もないじゃないか)
生まれてすぐ、捨てられたも同然の僕。
けれど、ここでなら・・・。
彼が必要としてくれる限り、僕が牝豚である限り、マスターは僕を手放さない。
一生、傍に置いてくれるのだ。誰も必要としてくれない僕を。
(だから、もう、いい。いいんだ、これで)
本当の心は誰にも見えない、僕にも見えない奥底へと沈めておこう。
それは家畜の僕には必要ないものなんだから。
マスターの牝豚である僕には。


暗い地下牢の天井には紐が残っていた。
あそこに、ついさっきまで僕は吊るされていたのだ。
肩に掛けられていた赤い襦袢は床に落ち、その色は全く違う色へと変化している。
そう、僕の淫液とオシッコに塗れて。
淫らな色に変えられた布の上には、マスターのザーメンで汚れたスカーフが一枚。
僕の身体にピッタリと巻き付いていたのだけれど、それも乾きに負けたのか自然と剥がれ落ちてしまったのだ。

けれども、ザーメンの殆どは僕の身体に吸収されたようだった。
何故なら・・・。
マスターの手でそれを巻かれた部分は僕の頭部だったのだから。
淫猥に濡れた髪の毛、頭皮、そして。
ハラリと口元に落ちてきた一端を僕は口の中へと咥え込み、チュウチュウと何度も何度も吸い込んでいた。
美味しいとしか思えなくなってしまったそれを。
もう、調教前のように録画されているわけでもないというのにだ。
全裸でも風邪を引かないように設計されている、地下牢という名の僕の部屋。
その自室から四つん這いで歩き出すと、僕は一番早くマスターの顔を見ることの出来る玄関へと向かった。




華々しい装飾品、神秘的に輝く宝石、綺麗な人形。
何れも可愛らしい少年少女や大人になる一歩手前の女性、容姿端麗な青年などが客のニーズに合わせて多数取り揃えられている。
そんな哀れな商品を目当てにして、この倶楽部の最奥に集まって来ているのは大勢の富豪たちだ。 
今夜も、彼らの客席は興奮のるつぼと化していた。
カタログに載っているのは特別な商品なのだろう。ニヤニヤ顔で覗き込んでいる者がそこかしこに居るのが分かる。

今日、初めてこの倶楽部を訪れた壮年の男性は、落ち着いた態度で周囲を見回していたが、ゆっくりとした足取りで悲鳴の上がっているステージの方へと歩き出した。
紹介者である友人の小賀田は総支配人と何やら打ち合わせており、一向に案内してもらえないからだ。
幅の広いステージ上では、三人の人物が猥褻なSMショーを繰り広げていた。
男は暫らくそれを見つめていたが、自分の捜している人物でないことを確認し、左右を数回見回してから薄暗いフロアを右へと進んでみた。
どのフロアに入っても、何人もの奴隷が卑猥な格好で主人役に甚振られ、可愛がられている最中で、幼い少年少女だろうともその表情は善がり、喘いで恍惚としていた。

彼らは全員、緑の首輪を付けている。
友人によると、緑はこの倶楽部で飼われている奴隷の証だという。
ある程度調教され、客に提供できるよう躾けられているらしい。
実際、どの奴隷も逃げ出そうとはしていなかった。
自分から主人に縋ったり、懇願したりして、身体の熱を何とかしてもらおうと強請っているようだ。
客の前に出る際に必ず飲まされている強力な媚薬。
それによって身体の弱い場所を常に刺激され、毎日の調教の成果と相まって酷く疼き続ける濡れる秘所を揺らしているのだ。
(何か大きなモノで、太くて長いモノで、ソコを塞いで欲しい!)
自分ではもうどうしようもない、その強烈な渇望を慰めたい、と。
飼い慣らされた奴隷は、この澱んだ水槽で泳ぐことでしか生き延びられないのだ。

今日、男がわざわざ友人を介してこの倶楽部にやって来た理由は、ここで愉しむ為でも、新しい奴隷を購入する為でもなかった。
表向きは、自宅で飼育している仔犬に飽きたので新たな飼育犬が欲しい、という理由をでっち上げておいたが。
気紛れだが面倒見のいい小賀田が、予想通り倶楽部を紹介してくれて手間が省けたと助かっていた。


赤の首輪を付け、誰の相手もしていないのは売り物だと聞いていた。
家で置物として飾り、招待客に愉しんでもらう「装飾」には、黒の足輪。
パーティなどに連れ回しても見劣りしない「宝石」は、青の足輪。
主人の遊び相手、退屈凌ぎに使用する「人形」は、白の足輪。
客の希望を最優先する為、前も後ろも上の口さえ未使用になっているらしい。
倶楽部の地下にある岩牢に閉じ込め、自分が商品であることを、毎日飴と鞭で覚え込ませて逃亡する意欲を削いでいるという。
確かに、こうやって自分が近寄っても震えるだけで、まったく逃げようとはしなかった。
客の遊び道具だと諦めたのだろうか、どれも目に光が宿っていないほど暗い表情を晒していた。

趣向の違うフロアを周りながら、男は次々と「商品」を確認していく。
捜している人物がいないかどうかを。
総支配人と話が付けば自分の手飼いの仔犬と交換し、少しの手付けで購入出来ることになっていた。
勿論、そんな気は微塵もなかったが・・・。

いつの間にかグルっと一周していたようだ。友人が手を振り男に笑い掛けて来た。
「どうだ、気に入った商品は有ったかな?」
「いや、残念だが今日は見つからなかった。申し訳ない」
連れて来てもらった手前、出来れば今日見つけたかったのだが、さすがにそう簡単にはいかないようだ。
「構わんよ。君を放っておいて悪かったね。実は、ここで購入した商品があってね。それを引き取りに来たんだよ。だから気にしないでくれたまえ」
そう笑いながら小賀田は頷いてくれた。
「そうか。私の方は今日は諦めるよ。帰って家で今の仔犬で遊ぶとするかな」
「ああ、分かった。・・・そうだ、君を例の地下に招待するよう総支配人に話しておいたんだ」
何気なくサラっと小賀田が言う。
滅多なことでは地下の入り口にさえ近寄れないと聞いていた。
「え、いいのかい。私は今日初めてきた者だよ」
「構わんさ。君を紹介したのはこの私だし、総支配人も了承済みだよ。それに、このまま帰すのも忍びないしね」

指でボーイを呼び寄せる小賀田。手馴れた仕草に関心するが顔には出さない。
「彼を総支配人のところへ案内したまえ。私から連絡は入れておく」
頷いたボーイが、どうぞ、こちらです、と私の前に立って進んで歩き始めた。
「小賀田、ありがとう。・・・また連絡するよ」
「ああ。購入したら一度見せてくれ」
シニカルに口の端を上げ、微笑む友人に軽く手を振ってからボーイを追った。


暗く重苦しい空気に包まれた地下牢は、ひたすら細長く続いており、一体何人ここで飼育されているのかと考えていると、総支配人の笠井が淡々と教えてくれた。
「一つの牢に2人ずつ。全部で80人用意しています。お好みのモノがあればよいのですが」
そんなに居るのかと少し驚いた。これだけいれば私の捜し物も居るかもしれない。
「茶髪で長身の若者、確か今年30になるんだが、見た目は20ぐらいの青年。それと、長い黒髪の15歳の少女。このセットでここに入ったモノはいるかな? ・・・兄妹なんだが」
上に居なかったのだから、ここにしか居ないはずだと総支配人を伺うと、彼は少し考え込んだ後、こう言った。
「ええ。確かに居ましたよ。ただ、残念ながら、もう売れてしまいましたね」
「それはいつのことです? 一体どこの誰にか分かりますか?」
やっと捜していたものを見つけることが出来た所為か、私はほんの僅かだが興奮して問い返していた。
「その2人をお買い上げになられた方々は教えられません。規則ですから。ですが、確か男の方は性具として、女の方は犬として買われていきました。・・・これが貴方の知りたかったことですか? 田宮様」
一瞬だけ鋭い視線で見つめられたが、その光はすぐに消えてしまい、笠井総支配人は穏やかな表情を貼り付けていた。

隠していたものを的確に指摘され、しょうがないなと苦笑して真実を話すことにした。
「さすがですね。正確に人を見る目を養っておられるようだ。・・・ええ、それが私の目的ですよ。彼らが誰に飼われ、最後はどうなるのかを知りたかったのでね」
「なるほど。では、欲しくて捜されていた訳ではないのですね。それで、貴方の望みは叶いましたか?」
ズバリと切り込まれ、ここまでバレたのなら構わないか、と頷いてみせた。
「ええ。私の、・・・大切な牝豚を虐めていた愚か者たちの末路が分かって安心しました。親の方は私が売り払いましたが、例の2人は他の者が借金の形に連れて行ってしまい、中々居所が判明しなかったもので。ですが、これで一件落着です。ありがとうございました」
暗く華やかな倶楽部を後にし、田宮はようやく愛する牝豚の待つ家へと戻っていった。


煙草の煙の匂いが鼻につき、まずシャワーを浴びようと考えていたのだが。
玄関を開けると、可愛い牝豚が私の帰りを待っていたのだろう、ちょこんと板張りに座り込んでこちらをじっと見上げていた。 
眼差しは本物の仔犬のように嬉し気で、唇は誘うように小さく開かれており、私の心を簡単に興奮させていく。
「ただいま。いい仔にしていたかい? 秋実(あきみ)」
「お帰りなさいませ、マスター。・・・こんなに早く戻って下さってアキは本当に嬉しいです」
四つん這いのまま、すりすりと私のスラックスに頬を寄せる秋実の頭をポンポンと軽く叩くと、靴を脱いでスリッパを履いた。
居間へ向かう私の後を、忠実な牝豚が必死に付いてくる音がして、思わずクスっと笑ってしまう。
それに気付いたのだろう、秋実が一瞬足を止めたようだったが、すぐに歩き出した。

居間に入って気に入りの椅子に座ると、数時間ぶりに心から落ち着いた気がしてホっと息を吐く。
ワイシャツの一番上のボタンを外し、ネクタイも緩めた。
定位置である私の足元に大人しく座って見上げている秋実の顎を取り、目で次の命令を促した。
躾の行き届いた牝豚が素直に大きく口を開いていくのに満足する。
その口腔に唾が溜まるのを待ち、私の指を三本ズボっと差し込んでやると、秋実は苦し気な表情を浮かべながらも、一生懸命に指に唾を塗り込めるように唇を動かし続けた。
数分、その顔を眺めて愉しんでいたのだが、いつしか秋実は恍惚の表情を浮かべ、私の方を誘うような目で見つめてきた。
「どうした? もう、アレが欲しいのか?」
分かっていながらも秋実の恥ずかしそうな、それでいて我慢出来ないという仕草が見たくてワザと問い掛けてやる。

果たして、秋実は私の予想通りモジモジしつつも、教えられた卑猥な言葉を使って懇願してきた。
「ふぁ、ぃ。・・・うぉ、くの、いんら、ん、な、あなにぃ~、ましゅ、た~の~、おおきっ、ふぉとぉい、チ、ンポぉ、ぃ、いれてふぅださいぃ~」
そう言って、唾まみれの濡れた指を自分から咽喉奥へと差し込んでいく。もっと太いモノを頂戴というように縋る目で見つめながら。
「くくっ。いいだろう。私も早くもう一つのお前の淫乱穴に入れて愉しみたいからな」
嬉しいと泣く秋実の口腔から指を全て抜き出して、ポチっと勃っている乳首で塗り付けるように拭った。
ひゃっ、と声を上げる秋実の細い腰を掴むと私の膝へと乗せ、その可愛い唇を奪う。
「ふ、んむぅ~。んっ、んん~、んぐっ。はぁ、はぁあ~っ。んっ、んんっ~」
気持ちいいのだろう、顔を真っ赤にしながらも、秋実が私の舌を必死に探して絡めようと自分の濡れた舌を伸ばしてくる。
それに応えるように秋実の舌を強引に引き寄せ、たっぷりと舌を絡ませて甘い口内を貪った。

「・・・あっ、あぁんっ! んぐっ、・・・んむぅっ。んっ、んぅっ、・・・マ、マスター、ん、んっ」
ゆっくり唇を離すと、涎が二人の間に延びていき、それを見た秋実が頬を紅潮させていった。
もっと紅くしてやりたくて、その繋がった涎を舌で巻き取り、秋実の唇へと塗り込んだ。
「・・・!?」
真っ赤になって、それでいて嬉しかったのだろう。涙がポロリと頬を伝い落ちるのが分かった。
調教の成果で、この可愛い仔犬、いや牝豚は私の与える全てを喜んで受け止めるようになっていた。
「可愛いな、秋実」
褒める為に一度口付けを解いたが、誘うように開いたままの唇に煽られ、再度その濡れて妖しい唇へと顔を近づけていった。



赤い月を見上げながら、眠っている秋実を見つめた。
そこには、昔、私の崇めた女王と良く似た面影があった。
けれども同時に、その顔の一部、鼻や口元が私に似ていることを思い出してしまう。
そうだ、これは私の息子なのだということを。

何もかもが自分の思い通りに進む人生に、あの頃の私は飽き飽きしていた。
初めてのSMで女王の僕になってしまうほどに。
新鮮だった。自尊心を、身体を、一時とはいえ受け渡して懇願する自分が。
そして、鞭を振り上げて私を見下ろす、これまで会ったことのない女王に魅せられた。

欲しかった。どうしても。
休日の彼女を知りたくて、幻滅するかもと思いつつも家を訪ねたあの日。
彼女は、微笑んでいた。
満ち足りた顔で。
幼子が玩具を振り回し、やがて飽きたのかそれを投げ捨てると、彼女は急いで地面に座って綺麗に泥を落していく。
笑って受け取り抱き付いてくる子を、彼女は至上の幸福だと言わんばかりに微笑んで抱き止めていた。

失望感は浮かばなかった。
悪女だと、SMの女王などと呼ばれていようとも、彼女もまた一人の女なのだから。
だが、だからこそ、彼女が欲しかった。
自分の下僕として。
彼女には、SよりもMが似合う。それが分かったからだ。
幼子に振り回され、それを喜ぶオンナ。
彼女は虐げられてこその華だと確信した瞬間だった。

その後、一度だけ、彼女と身体を結ぶことが出来た。
理由は知らない。どうでも良かった。その具合の素晴らしさに。
何とかして彼女を自分のモノにしようと考えているうちに、あっさりと彼女は別の男を選んで再婚してしまった。
激しく胸の内に吹き荒れる嵐。幾年も止むことは無かった。
忘れた、と自分の心を偽り、それでもまだ彼女に拘り続ける日々。
そう、秋実のことを知るまでは。


知人から頼まれ、女王の夫、幸造の手助けをした関係で、幸造は私を頼み事をするようになっていた。
或る日、幸造から持ち込まれた話は興味深いものだった。
「少年を高く買う奴を紹介してくれないか。俺の女房の不要な方の子なんだが」
彼女が、もう一人子供を産んでいたと知って驚いた。
だが、その瞬間、何かひらめくものがあった。
年齢を確認すると、思った通り私との間に出来た子のようだった。
久しぶりに股間が熱く疼いて、幸造の前だというのに、余裕を見せるのも忘れて買い取ることを約束をしていた。

一応、紹介者として書面を用意してみせた。
実際に金を振り込んだのは私だったが、それに気付く幸造ではなかった。
後日、私の家に届けられた少年の名は秋実。
かつての女王の面影を持ち、その上、必要以上に大人しかった。
これなら、私の希望通りの下僕に出来る、そう思えるほどに。
けれど、彼の怯える表情に、秋実にはもっと相応しい地位があるように思えた。
そう、牝豚として家畜の扱いをしたくなる、そんな雰囲気を持っていたからだ。
あの家で使用人扱いされていた秋実は、私の調教を諦めた目で受け入れ、やがては自分から強請るようになっていった。


あれから、すでに10年以上が経っていた。
私の気持ちは全て秋実に向けられ、たまに仕置きをしようと手を上げると酷く怯える彼が可哀相で堪らなくなった。
私の仕置きは愛情からのものだというのに。
彼の心は、まだ彼らに縛られているようだった。あの残酷なヤツラに。
だから、私は策を練り、ヤツラを罠に仕掛けて地獄に突き落としてやることにしたのだ。
計画は上手くいき、なかなか居所が掴めなかった兄妹の末路も知ることが出来た。
後は・・・。
時間を掛けて、秋実に私の愛情を信じるよう仕向けるだけだった。
暗い地下牢での飼育から、家の中で自由に動き回れる牝豚として。

私は歪んでいる。それは誰に言われずとも自分が一番知っていた。
だが、これが私なのだ。変えようもないし、変える気もない。
秋実には悪いが、父親として接することは出来ない。
私に出来る最上の方法、それは私専属の牝豚として愛玩すること。
それだけだった。

寝息が穏やかな秋実を残し、私は1階の居間へと戻ると仕事を片付け始めた。
階下に、この家に、秋実が居る。
それだけで、私には充分だった。
今も、そして、これからも。
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