【 玩具の仕事 】 初出-拍手お礼小説


座り心地の良い椅子に座って、ここ数日とても気に入っている小説の続きを読んでいた。
エッセイと詩が混じり合う構成の本なのだが、不思議とスルスル頭に入ってくる。
しばらく読み続けていたのだが、ふと顔を上げてみると陽が落ちていた。
すでに外の様子は真っ暗で、カーテンの合わせ目から見える灯りが、誘蛾灯のように遠くまで連なっていた。
読み始めたのは午後三時頃だった。まさかこんなに時間が経っているとは思わず、自分自身に腹が立ちながら舌打ちする。
「ちっ、もうこんな時間かよ」
マズった、時間がねえ、と慌てて本を傍のテーブルに置いた。
椅子から立ち上がろうとすると、急に動いたからか足が重く感じられた。
それを気にすることなく数歩で廊下へと出ていく。
歩きながら首を回してコリを解すと、両手を上に上げて大きく伸びの格好を取る。
思ったよりも身体全体が固まっていたようだ。
数回、肩を回した後、胸の前で手を組み、肘を伸ばすように背伸びした。

廊下を左に曲がり、突き当りの青色の扉を勢いよく開けた。
「くっそ~、何で俺がっ!」
毎日の日課になってしまった台詞を呟き、腹立ちそのままに服を脱いでいった。



髪と全身を念入りに洗うと、浴槽へと身体を沈めていく。
ここで油断すると眠ってしまうので、両手で自分の頬を何回か叩いた。
数か月前、気持ち良すぎて浴槽の中で眠ってしまい、大変な目に遭ったことがある。
勿論、自分が悪いのだが、そもそも現状に腹が立っていた俺は、つい反抗的な目で睨んでしまったのだ。
玄関に迎えに来ない俺を探して浴室まで入り込み、真上から見下ろしていた相手を。
「何だ、その目は誘っているのか。じゃあ酷くしてやるよ」
普段訪れる男達より比較的若かったその男は、舌なめずりしながら俺を強引に立ち上がらせた。
それからは、どんなに謝ろうとも行為は止まず、指一本動かせないほどに酷使されて、最後は失神してようやく男から逃げることが出来たのだった。

その時の様子も、今の俺の様子も、浴室内に設置されているカメラを通してジジイの元へと転送されているだろう。
どこかの大物らしいジジイに直接会ったのは、このマンションに連れて来られた時だ。
俺は椅子に座ることを許されず、強引に押し倒されて土下座の体勢にされてしまった。
屈辱的な格好に顔がカアっと赤くなった。
それでも周囲をコソっと見渡して必死に逃亡を試みようとした。
どうやらここは誰も入居していない新築のようだった。
真新しい家具が配置され、カーテンも床の絨毯も新品で、取り忘れたのかビニールの付いたダイニングテーブルの脚が見えた。

「頭をもっと下げろ。・・・この前、お前の弟の件で仮契約を結んだが、今日からお前にはここに住んでもらう」
俺の姿勢を指摘し、大きな掌で強引に下げた部下の男が、今後の予定を話し始めた。
(何勝手に決めてんだよっ。俺はまだOK出してないじゃねえかっ)
ムカムカする俺を置き去りにして話は進んで行き、時折、それを邪魔するようにクソジジイの言葉が挟まった。
「ワシには暇な時間などないが、友人らは退屈で死にそうだと煩そうてなぁ」
「闇市で売買する映像が足りないそうじゃ。可哀そうだと思わんか。じゃで、ここはひとつワシが手伝ってやろうと思ってのぉ」
「さてどこまでお前の痴態が広まるのやら。・・・なぁに、そのうちワシに泣いて感謝するじゃろうて」
俺を商品として見ているジジイの口調が腹立たしいと同時に冷たいモノが背筋を通り過ぎた。
自分が男に犯される。それだっておぞましいというのに複数に犯されるというのだ。それも毎日、休むことなく。
映像が裏の世界に渡され、複製、拡散という更に増殖する可能性を示唆されてガクガク身体が震え始めた。
優しいじゃろう? なんて平気でいうジジイに頭を下げたまま、床の絨毯の毛を必死に握り締めていた。

土下座から解放された後、犬の首輪をジジイが連れて来た部下の手で着けられた。
涙がこぼれそうになるが必死に顔を上げてクソジジイを睨んでやった。
腹立つことに楽しそうに笑うジジイ。
俺は、その顔を見ながら敗北感だけを感じていた。
それから、俺だけに不利な条件でクソジジイとの契約が結ばれていった。
内容が自分の許容範囲を飛び出していたからか、最後の方は正直あまり覚えていない。
要約すれば、何もかも曝け出してジジイを愉しませろ、という一点に絞れるだろう。
「お前の仕事は、毎日違う相手から犯されること。相手はこちらで指定する。拒否権はない」
クソジジイの後ろに控えている黒服の一人が、淡々と契約内容を読み上げていく。
「ここの鍵はその方達に事前に手渡される。一応、都合に合わせて到着時刻がメールされる筈だ」
おい、待て、と心の中でそいつを止めるものの、実際には周囲を取り囲む黒服の存在で何も言えやしない。
そんな俺を無視して、読み上げは続いた。
「基本は夜から明け方まで。次の方が来る一時間前まで延長は自由だとする」
普段の俺なら、ふざけんな、と叫んでこいつら殴り倒しその場を去っていただろう。
だが、俺には弱みがあったし、何より現実感がなかった。
犬の首輪を着けた俺は、まるで主人であるジジイに従う犬のように、読み上げが続くのを大人しく聞いているしかなかった。

メールの確認。風呂に入って身体を綺麗にする。浣腸は相手がやりたがる場合が多いので準備を怠らない。
やって見せろと言われたら従うこと。潤滑剤、調教用の玩具を必ず見える場所に置いておく。
ベッドメイクは常に整えておく。部屋の掃除は、週一回、食料品などの配達と同時に行われる。
その他いろいろを書いた紙を渡され、ノロノロとした動作で受け取った。
それをジジイがニマニマしながら見ていたが、睨み返す気概などもう俺には残ってなかった。


カメラを通して見られている。起きてから現在まで途切れることなく俺の姿は録画されているのだ。
読書中は忘れていたのに、浴室に入って服を脱ぎ出した瞬間から身体が疼いて仕方がなかった。
手を伸ばして慰めたりしないように、尖った乳首と勃起したモノを視界から外した。
それでも、ジジイを楽しませることが仕事だったから、浴槽の中で大きく脚を開いて組み替えたり、尖った乳首を見せ付けるようにカメラの方を何度も向いて見せた。
感じている自分の頬が赤く染まっていることを知りながら、身体を捻るのを止められない。
時折、お湯から片足を浴槽の淵へと乗せて、興奮状態になってしまった部分を覗かせてやった。
(もう充分だろっ。クソっ、クソったれぇ~~)
浴槽の栓を抜くと、ボコボコと音を立てながら湯が流れていく。
大きく脚を上げ、股間をカメラへと向けて一時停止してから逃げるように浴槽を出た。

壁に掛けてあるスポンジを手に取り、汚れた浴槽を手早く洗っていく。
勿論、ジジイにサービスするように尻はカメラの方へと向けた。
(クソ、クソ、クソ~~っ。何で俺が・・・っ・・・)
思いとは裏腹に、身体はジンジン疼いて堪らなかった。
(早く慰めたいっ。だが俺の手は駄目だっ。使うんじゃないっ。使ったら、また酷い仕置きが・・・)
以前、耐え切れず自分で慰めたら、恐ろしい効き目の媚薬を使われてしまい、射精してもアレを突き込まれても疼きが止まらなかった。
羞恥心など吹き飛ばすほどの欲望が胸を巣くい、ドロドロする何かとジンジンする疼きと快感に全身が痺れ続けた。
終わったのは、翌日の男がやって来て暫く経ってからだった。
「ようやく満足したか。この淫売め」
ニタリと嗤われた瞬間、どこからか羞恥心が戻って来て本気で死ねる、と思った。

あんな仕打ちはもう絶対に嫌だ。そう思うのに、ビンビン疼いて震えるモノを慰めたくて堪らない。
もう誰の手でもいいから早く触って欲しかった。
(誰か触ってくれっ。頼むっ、頼むからっ)
そんな気持ちが浴室中に溢れているに違いない。
この淫乱な身体を触って慰めて欲しい。ギュっと抱いて欲しいのだ。
暖かい筈なのに震えて仕方がない身体を両腕で抑えながら、俺は浴室から抜け出した。



髪を拭き、ドライヤーを掛けて乾かす。その間、身体には何も纏えない。
ジジイから命令されている通りに生活しなければならないからだ。
全裸のまま廊下を戻り、今度は台所へ入った。
冷蔵庫を開けて水のペットボトルを手に取る。
それを持って居間へと移動した。さっきまで本を読んでいた椅子へと座る。
(冷たっ・・・。タオル一枚ぐらい許可しろよな)
聞こえないよう心の中で文句を言ったが、これも今更だった。
冷えた椅子の上で姿勢を正し、双尻の狭間を開かせるよう意識して両脚を開くと肘掛を跨がせた。
浴室のみならず全ての部屋にカメラが設置されており、どこにも俺の逃げ場はなかった。

自分の生活をジジイに見られる。この現実を噛みしめる度に屈辱が増していった。
それでも、弟を人質に取られていては小さな抵抗一つ出来ない。
(酷い目に遭っていないだろうか)
仮契約の後、弟は組織から救出されジジイの知人に預けられたと聞いていた。
未だ声すら聞いておらず、不安で堪らなかった。
(いや、今はこの後の地獄に備えて、少しでも身体を濡らしておくんだ)
頭を振って弟の残像を振り払うと、天井のカメラを睨み付ける。
(好きにしろっ。その代わり弟を早く自由にしろってんだ)
触りたいのに触れない。その焦燥感に俺は必死になって尻を椅子に擦り付けていく。
両手を使って勃起したモノを何度も何度も擦りあげるイメージを脳裏に浮かべて、尻を振り続けた。
覗いているジジイを挑発するように。
色に狂ったかと嘲笑されても構わなかった。
潤滑剤も使ってくれない男が多く、自分で少しでも濡らしておかないと、そこが酷い目に遭ってしまう。
俯きたくなる顔をカメラへと固定したまま、射精を促すように大胆に脚を開かせ、肘掛けで太腿裏の皮膚が痛むほどに尻を振りまくった。



カチャ。玄関の扉の開く音が自分の喘ぐ声に紛れて聞こえた気がした。
けれど乳首を弄る指も射精して濡れ濡れのモノを握る手も止められない。
それどころか。────嬉しかった。本当に嬉しかった。
誰よりも淫乱なこの身体を鎮めてもらえると分かって。
(あぁ、早くっ、早く来てくれっ!)
今回、ジジイが派遣した男はどんなだろうか。
アレが大きい人だと嬉しい。いや、長い人の方が思いっきり突いてもらえる。そんな事ばかり考えてしまう。
今か今かと、相手が歩いて来る方角を俺は見つめていた。

今日の相手は、どうやら俺を焦らす作戦のようだ。
中々この部屋へと入って来ない。台所で一服しているのかタバコの臭いが漂って来た。
おかげで妄想は止まらなかった。
奥の奥まで貫いて欲しい。身体を突き抜けるほどの勢いで俺を突き上げてくれっ、と口の端から涎を垂らした。
淫らな熱に思考は壊れ、視界は真っ赤に染まっていく。

俺の弱み。優しくて愚かな弟のことすらもうどうでも良くなっていた。
馬鹿なチンピラに捕まり、借金の返済に非合法な組織に売られた弟のことなど。
ジジイの契約で助かるなんて幻想だと、本当は分かっているのだ。
こんな取引をジジイがまともにやる筈がない、と。
(まだっ? ・・・あぁ、待てないっ、もうっ、待てないっ。 早くっ、早く来てくれっ・・・)
俺は軟体動物のように身体を揺らし続ける。

口からはひっきりなしに涎が垂れ下がり、ツーっと顎まで伝っていく。
それを指で拭い取ると、ヒクヒク震える鈴口へ塗り込めながら中へと差し込んだ。
ようやく姿を現した逞しい男に、俺を玩具扱いするだろう男に見えるように。
喜んでもらいたい、淫乱だとなじって欲しい、その気持ちを伝えるべく淫らに微笑んで見せた。

決まり事を破り、我慢出来ずに自分で慰めてしまった。そんな愚かな玩具を調教し壊してくれ。
俺は指を増やすと、その狭い場所を両側へ開いていった。
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